外国人雇用とマネジメント企業へのインタビュー ~株式会社グローバルトラストネットワークス 後藤 裕幸氏~

グローバルパワーユニバーシティ 外国人雇用とマネジメントの先人に学ぶコーナー第6弾は、外国人専門の賃貸住宅保証サービスを行う株式会社グローバルトラストネットワークス後藤 裕幸氏です。グローバルパワーユニバーシテイ編集部の神(じん)がお話を伺いました。

後藤 裕幸(ごとう ひろゆき)
株式会社グローバルトラストネットワークス
代表取締役社長

■会社プロフィール
設立:2006年7月
従業員数:210名
外国人社員数:150名

『3言語以上話せる人を採用していった結果7割が外国人社員に』

 外国人社員数の多さが目を引きます。どのような方が在籍していらっしゃるのですか?

後藤氏 20以上の国の出身者が在籍していて、多くはアジア圏出身の社員です。アルバイトをしている学生が希望して、社員に採用されるケースが最も多いです。アルバイトも中途社員も、従業員の紹介(リファーラル)による採用がほとんどですね。

採用基準は、まず3言語を話せること。ただ、特別な資格・経験などで秀でていれば言語に代わるもの2言語+1の3スキルとして採用しています。事業柄、マルチリンガルであることは尊重していますが、一方で、言語は入り口であって一番大事にしているのは企業理念への共感です。株式会社グローバルトラストネットワークス(以下:GTN)の事業の場合は、自分自身も「来日した際は同じことに困ったから…。」など、共感してもらいやすいと思います。

『日本で【外国人】として苦労した人はやはり優秀』

神 自然と外国人社員が増えてきたということですが、日本人と外国人の違いは何かあるでしょうか?

後藤氏 以前感心したのは、採用の時点で3言語話せる外国人社員が、入社後さらに1言語を習得したことです。その人はTOEIC900点、日本語能力試験N1をも持つ方で語学堪能かつその自覚もあったのですが、GTNではそういう社員が沢山いて「それが当たり前」という環境です。

だから一度はプライドが傷ついたものの、持ち前の学習力を活かして習得してくれたのでしょう。指示したわけでもないのに気が付いたら新たな言語も活かして仕事をするようになっていました。

母国を離れて生活をしている外国人社員の多くは、日本での生活に苦労した経験があります。日本人でずっと実家暮らしで言葉やお金に苦労したことは無くて…という日本人に比べて根性、力強さは感じますね。自分で新しく習得したり解決したりしようという自走力も強いと感じます。

神 そういった性格の違いの背景には何があるのでしょうか?

後藤氏 「失敗に対しての考え方が違う」と感じます。日本人は失敗に対して叱られる、評価が下がる、というネガティブな印象が強いですが、外国人はそうではないようです。

例えば社外で講義をしても、外国人の生徒は席が前から埋まっていって、質疑応答も失敗や間違いを恐れずブワーっと手が挙がりますね。日本人は、後ろから席が埋まっていって(笑)当てたらきちんと質問が出てくるのに、自ら手を挙げる人は少ない、「何か間違ったことを言うのではないか」という不安を持っているように感じます。

GTNでは失敗の奨励をしています。仲間のため会社のためにトライした結果の失敗は良いとしており、悪意のある失敗でない限り、叱ることはありません。

神 外国人社員について他にも発見があれば教えてください。

後藤氏 GTNの場合、宅建などの資格試験において、外国人社員の方が合格率は高いです。話を聞いていると勉強時間や集中力、勉強の仕方が圧倒的にストイックですね。日本とは比べ物にならないくらいの競争社会で生き抜いてきたのだということがよく分かります。

『チャンスを明瞭に示す』

神 これだけの外国人の従業員を抱える中で、大変だったこと、困ったことはありますか?

後藤氏 個人差はありますが、親の存在が大きく「国に帰ってきなさい」と言われたら帰らなくてはいけない。という意識は日本人より強いと思います。文化的背景はもちろん、日本への留学をサポートしてもらったという認識もあるからでしょう。

また、成長意欲やスピード感がある分、企業側が試されるところがあります。例えば、「この会社にチャンスが無い」と分かるとすぐ辞めてしまいます。ですから、近い年齢の人が昇格している、新しいことにチャレンジしている、役員が多国籍、など、GTNで目指せるものが見えるようにしています。

その背景には、東南アジアの国々の成長率があります。母国では、1年に10%近く平均賃金が上がって、国民の平均年齢が若く、20代でマネージャー…という人がゴロゴロいるわけですから、日本では20年30年我慢して下積みするのが普通だよ、と言われても待てないのは当然かと思います。

以前はこの辺りを明瞭に表せなかったこともあり、離職率も高かったです。現在は人事制度を改善し、他にも悩みや困ったことを抱え込んだ末に辞めてしまわないようメンター制度を大切にしています。

『離職率が50%から7%に』

神 メンター制度とはどんなことをやっている制度なのでしょうか?

後藤氏 会社が指名制でメンターを決めて毎週面談をしています。例外もありますが、同性で少し年上の先輩で、仕事面も人格面でも模範としてほしいような人物を指名することが多いです。国籍の組み合わせは意識していません。

昔はただメンターを決めるというだけで終わっていて機能しておらず、一度無くなった制度ですが、現在は見直してカルテのようなものを設け細かいチェック項目も決まっています。方向性としては、悩みや困りごとに同調するだけでなく「導けるような会話」になるようお願いしています。毎週面談を実施して、書類の提出もあります。

メンター制度のねらいは、悩み事や困りごとの解決やフォローだけではありません。会社へのエンゲージメントを高め、優秀な人に長く活躍してもらうための制度でもあります。評価の高い社員の上司は安心から指導が少なくなりがちですが、メンターが気にかけ続けることで、見てもらっている、興味をもたれている、会社にとって大切な人だということがちゃんと伝わるようになります。承認欲求を正しく満たすことで、帰属意識も高まりました。

メンター制度を設けることで、失敗に対してはフォローができ、成功確率を上げつつ、会社に対する感謝、ロイヤリティを高めることが出来るのではと考えています。

神 職場や仕事以外のフォローもしているのでしょうか?

後藤氏 しています。趣味とかプライベートにも話が及んできます。やはり母国を離れて仕事をしていますから、友達や趣味の活動を一緒にする人がいない!親兄弟と全然会っていない!という社員も多くいますから、そういった心のサポートも大切にしています。

1億2千万よりも、77億人から優秀な人材を採用するべき』

神 単刀直入に、日本の企業は外国人社員を雇うべきだと思いますか?

後藤氏 はい。日本の人口1億2千万人ではなく、世界の人口77億から人材を選んだほうが良い。というシンプルな理由です。ご存知の通り日本は少子化で、現在の日本の大学卒業生は毎年55万人程度しかおらず、日本中で優秀な人材の取り合いになっています。一方、世界では高学歴化かつ人口が増えていて、仕事が見つからない人が沢山います。加えて、世界にはまだまだ日本に来たい人が大勢いますから、いわゆる「東大以上の大学」を卒業している人の採用が出来ます。

実際、私たちの会社が東大の学生を採用しようとしても難しいですが、世界ランクにおける上位大学の卒業生が、入社を希望してくれます。外国人である彼らはグローバルな感覚を持っていて、海外に行くことや新しいこと、知らないことへの恐れがありません。

また、人によっては日本の就活において外国人であることにハンディを感じた経験があり、採用された企業への感謝の気持ちが大きい傾向にあります。売り手市場で内定をたくもらっているような日本人ですと、そういう感覚にはならないと思います。

『会社の公共語は日本語だから、ランチも面談も日本語』

神 多国籍社員が所属していると文化や伝統の違いですれ違うことありませんか。

後藤氏 過去には、言語や出身国、民族間の上下意識などでコミュニティが偏るということがありました。現在はそのような区別、差別の意識は一切認めないという姿勢を徹底しています。

社内公用語は日本語で、同じ国籍同士でも日本語を使うルールにしています。隣で何を話しているか分からない、というような疑心を持つことが無いようにするためです。ランチも面談も日本語で会話するよう周知しています。どうしても母国語同士で話さないと伝わらない時は、周囲に「ちょっと●●語で話します」と断ってから話すようにしています。それで生産性が下がると感じることは全くありませんし、むしろ周りの人も会話が聞こえて理解できるので、ナレッジを共有することになります。

はじめは多少日本語で話すストレスがあったとしても、社員の日本語のレベルも上がっていくためその方が良いと考えています。

神 ほかにも人材や人事において大切にしていることはありますか?

後藤氏 主任になるのは立候補制にしています。「任命されたからやります」「別にやりたくてやってるわけじゃないけど」と言っている上司とは働きたくないでしょう。昇格に限らず率直な意見をすることも奨励していますね。

逆に、忖度や察するような行動の様子があれば「言わないと分からないよ」と伝えています。事業を伸ばしたい社長は「率直な現場の意見を聞きたい!」という人ばかりでしょう。世界で戦っていくためには、以心伝心とか、阿吽の呼吸とか、そういった文化では難しいです。多くの外国人は率直な意見を言ってくれます。

 

『多様性があるからこそ、価値観の補完ができる』

神 お話を伺う中で、国籍に拠らず多様性のある職場づくりをしていらっしゃると感じました。多様性の良さはどんなところでしょうか。

後藤氏 価値観の補完が出来るというところは本当に良いですね。日本の会社で日本人がデスクに座っていても、知り得ないことが沢山あります。例えば、インドではどんな家電が売れるか?それは現在のインドの生活に沿ったもの、

例えば「ケバブ温め機能」がある電子レンジとか、ガンガンに冷風が当たる冷房とか、そういうプロダクトです。日本で人気なヘルシーな揚げ物が出来る機能とか、自然な風で部屋を冷やすかとか、そういった日本の「最も良い」とされる価値観とは違います。でも、それに何年も気が付けず事業が振るわないという企業が多くあります。

いくら高度な技術を持っていても、ニーズを間違えると商品は売れませんから、相手の価値観、現地の価値観を十分に知って馴染まなければ事業を成功させることは出来ません。日本人が海外に行くときや、外国人に向けたサービス事業をする時も同じだと思います。事業をやる以上、1つのアイディアに対して立体的な視点が必要だと思います。

神 なかなか外国人採用や、ダイバーシティが進まない。封建的な社風を一蹴できない。という職場もあるようです。後藤さんからアドバイスをお願いします。

後藤氏 まず「共通言語」みんなが話せる言語で話しましょうということです。

もう一つは、失敗の奨励です。「怒らない」ではありません。失敗を「よくやった!」と褒めるくらいで良いです。

そして、透明な人事評価制度にすることです。最近は透明度の高い人事評価のためのツールやシステムがありますから活用するのも良いですね。

こういった評価制度の奨励が難しい場合の多くは歴史があり規模が大きい会社だと思いますが、制度を変えるとなると大変な労力が必要になりますし、新しいモノ・コトに対して抵抗が強い、というのはよくあることです。

当時のまだ創業から数年のGTNでも反発がありましたが強行しました。結果、離職率が圧倒的に減りました。やはり、ブラックボックスという不確実な人事の中に、一度しかない自分の人生を巻き込まれたくないと誰もが思うのでしょう。どうやったら、昇格昇給できるのか、自分の努力や時間が無駄にならないか、というところが不明確では嫌になって離職者が増えるのは当然です。

神 GTNの透明な評価制度とはどのようなものですか?

後藤氏 360°評価と言います。360°評価は上司・同僚・後輩の6名が1人を評価します。ですから、社長が何と言おうとその人の評価が決まるし、皆が皆を見ている状況です。

この仕組みであれば、成績の数字が出ていなくてもみんなのモチベーションを上げている人が居ることも分かります。結果的に、ネガティブな発言ばかりの人、政治的な事ばかり考える人は自分を変える努力をするか、できなければ辞めていき、さらに新しい人が入ることで好循環が生まれました。

人事はオセロだと思います。白と白で挟むと黒も白になっていく。変われない人は辞めて行ってしまうこともありますが、基本的にはスピード感のある社員が多いのでキャッチアップが早いです。

『給与と条件だけで人材を縛ることはできないから、文化づくりをしています。』

神 ほかにも人材を惹きつけるような制度や仕組みがあれば教えてください。

後藤氏 入社後の全部署研修をやっています。「隣の芝生は青く見える」ということを無くすこと、他部署へのリスペクトを持ちやすくすること、季節要因による必要人員の増減の補完、といったことが出来るようにしています。そういったスキルや経験も可視化してGTNマスターという制度をつくって管理しています。

他には、部活動を推奨して、仲良くなる=協力し合いやすい、という環境を目指しています。業務に必要なつながりとは別に、個人個人の個性・趣味・特技を活かした関係性を強化することを大切にしています。条件や給与だけで仕事をすると、代わりが利いてしまうし、条件面だけで人材を縛っては人材オークションになってしまいますよね。また、プライベートのために我慢して仕事をするというスタイルでは一日の3分の1が失われてしまいますから、「協力しあって仕事もプライベートも楽しめたらメッチャいいじゃん!」という考えのもと、そのための環境づくりをしています。

更に毎年12月には、年間の成績優秀者を表彰する「GTNフェス」を実施しています。野球部員が甲子園を目指して厳しい部活に耐え得るように、やはりモチベーションの維持には目指すべきステージが必要です。社会人になった途端ルーティン化した春夏秋冬を過ごすだけでは、なかなか継続して頑張れませんから、GTNフェスのステージに立てるよう頑張ろう。と思えるようなイベントをつくりました。

このような「GTNらしさ」の文化づくりは社長室に担当してもらっています。

 

『気持ちのサポートを日本人以上に大切に』

神 最後に、外国人採用にチャレンジする会社にアドバイスをお願いします。

後藤氏 まず入社したらメンターを1人決めること。ちゃんと向き合ってコミュニケーションをとることが大切です。日本人も外国人も人はお金だけで動いているわけではありません。同じくらい人間関係の希薄な職場で比べるならば、給料が高い方に行くことはあるかと思いますが、仲が深まればこれに限りません。

特に、海外から働きに来ている人には、気持ちの部分のサポートが必要ということは多いと思います。日本人のように社外に相談できる人が居ないことも多いですから。日々メンターが向き合う中で、どうしてほしいという希望や改善点も聞いてみれば良いと思います。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

株式会社グローバルパワー GHR事業本部所属 東京都生まれ。日本女子大学を卒業後、大手ゼネコンを経て、2016年グローバルパワーに入社。趣味はGoogle Mapsを辿ること。ペーパー1級建築士。