私たちみんなが「日本のブランドマネージャー」!~インバウンド維新 株式会社MATCHA 代表取締役社長 青木優氏~

この記事は、2021年11月24日(水)に開催したトークウェビナー「インバウンド維新」の内容をまとめたものです。当イベントはインバウンド(外国人訪日観光)業界の有識者・オピニオンリーダーをゲストに招いてインバウンド業界の未来を語り、参加者へ学び・気づき・エールを送ることを趣旨としています。第3回目となる今回のゲストは、訪日外国人観光客向けWebメディア「MATCHA」を運営する株式会社MATCHA 代表取締役社長の青木優さんです。お話は、グローバルパワーユニバ―シティを運営する株式会社グローバルパワー 代表取締役 竹内幸一が伺いました。

魅力あふれる日本の文化を世界に届け、文化を守りつなげたい

竹内 まずは自己紹介をお願いします。

青木氏 東久留米市出身の32歳で、訪日外国人観光客向けWebメディア「MATCHA」を運営する株式会社MATCHAの代表をしています。明治大学在学中に一年間休学し、バックパックで世界一周をしたことで日本の魅力に気がつき、2013年に会社を設立することになりました。MATCHAだけでなく、全国の自治体や企業と連携して海外向けのプロモーションのお手伝いなど幅広く展開しています。

竹内 世界を旅した経験がインバウンド業界に足を踏み入れるきっかけとなったわけですね。

青木氏 各国を巡りながら日本に関心がある人たちと話すなかで、日本の文化は海外で受け入れられているのに日本人は海外でビジネス出来ていないと痛感しました。

一方で帰国後に改めて日本を見つめてみると、都道府県それぞれに地域・文化の魅力があると気づきました。世界一周する前は東京=日本と考えていた私にとって大きな気持ちの変化でした。しかしそれに気づいている日本人は少なく、それでは世界に伝わるはずがありません。どれだけ優れた文化でも人に届かない限りはなくなってしまう。日本の魅力をきちんと世界に発信していきたいとの思いを込めて、Webメディア MATCHAを作りました。

竹内 MATCHAについて詳しく教えていただけますか?

青木氏 MATCHAでは訪日外国人に向けた観光地の紹介や旅のハウツーはもちろん、食や工芸品など「日本の文化」を伝えるための記事を豊富に掲載しています。

特徴的な取り組みとしては10言語で日本の情報を発信していること。しかも単純に10の言語に翻訳されるのではなく、国ごとのニーズに合わせて発信する情報を変えています。例えばインドネシアに対しては豚肉・酒の情報を出さない、台湾には複数回日本を訪れている人も多いためニッチな情報を届けるなど、その国の文化的背景や日本との距離感を踏まえてコンテンツを提供しています。

竹内 2013年の会社設立後、インバウンド業界で国内最大規模のメディアとして成長したMATCHAですが、コロナによる影響はありましたか?

青木氏 2019年のコロナ前には月間330万人を到達し順調に業務拡大を続けていましたが、コロナ後には約3割の100万人まで落ち込みました。けれど前向きに考えれば、99.9%日本を訪れることが叶わないなかでも100万もの人が見てくれている。大きな打撃のなかにも可能性も感じました。

インバウンド事業から撤退する会社が多くあるなか、外国の人たちがコロナ禍の今求める情報を的確に届けることで、コロナ後の海外旅行先に日本を選んでくれるのではないかと考え、情報発信の継続を選択しました。在日外国人や世界中で日本語を勉強している人が興味を持てるような記事を強化し、現在(2021年11月)は180万人見てくれている状況にまで回復しています。

竹内 コロナ前と現在で、海外と日本からのアクセスの内訳に変化はありましたか?

青木氏 コロナ前は7.8割が海外で残りが日本からのアクセスでした。現在は6.7割が海外、残りが日本という感じです。在日外国人への認知度向上に取り組んだ成果が表れているのではと思っています。

「行きやすい国」「行きたい国」になることが市場回復のポイント

竹内 メディアの回復からは明るい兆しも感じられますが、青木さん自身、インバウンド市場全体の回復はいつ頃になると考えていますか?

青木氏 多くの国は2022年4月頃から徐々に動き始めるのではないかと見ています。UNWTO(世界観光機関)のデータなどを踏まえて考えても、2019年のコロナ前の状況に戻るのは2024年頃なのではないかと思います。

竹内 コロナ前には観光庁が「2030年には訪日観光客数6000万人、旅行消費額15兆円」という目標を掲げています。この目標は変えるべきだと思われますか?

青木氏 変えるべきではないと思っています。今できることを粛々とやることで達成できるはずです。

達成に必要な要素にはビザの緩和を広げ、海外からみていかに日本が「行きやすい国」になるかという点があるでしょう。また成田・羽田への便だけでなく、地方への直行便がどれほど通常運航に戻れるかという点もポイントになりそうです。

また、アジア圏を中心に日本へ観光できる水準が上がってきていることにも注目すべき。それこそ日本よりも中国、シンガポールでの食事代の方が高いといった状況が生まれています。周辺国の豊かさがかなりのスピードで上がっていることを加味しても実現しうる数値だと思います。

日本の地域を旅行者にとっての「第二のふるさと」へ

竹内 インバウンド業界の今後の見通しについて、青木さんはどのようにお考えですか?

青木氏 今後インバウンド業界を復活に導くキーワードは、入国後の隔離情報をクリアにタイムリーに届けていくことだと思っています。現在は日本人が海外へ渡航した場合にも、帰国後の隔離期間についての情報が錯綜して混乱が起きています。当然海外の人は日本人以上に情報収集が難しいため、日本に来にくい状況が作り出されているように感じます。情報を透明化していくこととあわせて、コロナ蔓延の状況をより丁寧に伝えていく必要があるでしょう。

2つ目にサステナビリティ、つまり環境に配慮した側面を打ち出すことも大きなキーワードとなりそうです。「地産地消」という価値観が広がりつつあるなか、旅行者が地域に訪れることでお金が落ちて、雇用が安定して文化が残り続けるという循環をつくることを日本全体で大切にするべきだと思います。日本においてのサステナビリティはすでに注目されている領域ではありますが、改めてインバウンド事業と掛け合わせて考えていくと良いと思います。

また、観光庁が推進する「第2のふるさとづくりプロジェクト」も今後注目すべきキーワードです。一度訪れただけで地域と旅行者のつながりが終わるのではなく、二度、三度のリピートにフォーカスしていくべきだと思います。

世界に先駆けてこれに取り組んでいるのがスイスのツェルマットで、初めての訪問、五回目、十回目とサービスの質を変えているそうです。地域全体で旅行者のデータベースを管理して関係性を築いていく、この考え方がこれから日本のインバウンドにも必要だと思います。

参考:「第2のふるさとづくりプロジェクトの概要について」001428400.pdf (mlit.go.jp)

会社として生き残ること、ビジョンを高く掲げることのバランスをとる

竹内 インバウンド業界のリアルをお伝えするために、今MATCHAが取り組んでいることをシェアいただけますか?

青木氏 会社として生き残るための選択をすることとビジョンを高く掲げること、この2つの軸を常に意識しています。必ずしも相反するわけではないものの、バランスをとっていかなければと。

今インバウンドにかかわる人は、旅行者への発信を強化しすぎると会社としてのキャッシュが脅かされてしまいます。それよりも既存のコンテンツを磨き上げ、回復に向けて仕込んでいくことに注力するのが賢明です。

現在はさまざまな地域と連携して情報発信がリスタートしたタイミングで公開できるようストックを蓄えつつ、その地域に行きたくなるようなコンテンツづくりをお手伝いするといったことにも力を入れています。

竹内 ディフェンシブな視点が必要な時期ですよね。MATCHAが取り組んでいる具体的な戦略についても教えていただきたいです。

青木氏 旅行者は日本への旅行を計画してから帰国までに多くの体験を経ています。情報を収集してプランニングして、飛行機に乗って空港に着いてホテルに泊まって体験をして…挙げきれないほどの体験をしていますよね。

おこがましいことですが、コロナ前まではこの一連をMATCHA一社でどれだけ担うかを考えていたんです。それが今はいかに一社で戦わないようにするかを考えるようになっている。手と手を取り合えるようなパートナー・企業を増やしていくことが、いま私たちが取り組んでいる戦略の一つです。

MATCHAは上質なコンテンツにこだわって国内最大級のメディアに成長してきました。今後は今以上に影響力を高めていきたいと思っています。プロダクト強化のためにCTOにジョインしてもらうなど、企業や個人投資家からの出資を通して復活に向けて準備をととのえていることが2つ目の戦略といえます。

さらに3つ目を挙げるとするなら、地方自治体、企業との連携を深めて私たちができる情報発信の領域で力を尽くし、WIN-WINの関係を築いていることでしょうか。

日本・地域のブランドとは?考え続けることが世界へ広げる第一歩に

竹内 インバウンド業界を牽引するMATCHAが10年後に目指すところを教えてください。

青木氏 企業が商品やサービスの価値を高めるために体験設計・感情設計・事業性の責任を担う「ブランドマネージャー」という役割があります。私は日本にもブランドマネージャーという存在があって良いと思っています。

ハーゲンダッツを例に挙げると、同社のブランドマネージャーは消費者に「日常の小さな幸福」というイメージを定着させるためのコンセプトを考えています。コンセプトに沿ったプロモーションを繰り返し、食べたいと思ったときに手に取れる身近な場所で販売します。消費者が日々のちょっとしたご褒美にハーゲンダッツを連想し、購入し、専用のスプーンで食べて小さな幸せを感じる。この一連の体験には実に多くの人が関わっているんです。

日本が世界になにを伝えていくべきか、逆になにを伝えないべきか、日本でどんな体験をしてどんなことを感じてほしいか、それはどのような導線設計でどう発信するべきか。会社として一人の日本人として、これから10年かけて広い視野で考えて行動したいと思っています。

竹内 「日本のブランドマネージャー」は何人いても、たくさんいるほどいいですね。

青木氏 そうですね。さらにレイヤーは複数あっていいと思っていて、地域ごとのブランドマネージャーがいてももちろんいいし、食や書道など縦のカテゴリでもいいですね。旅行者にとって日本は海外旅行先の選択肢の一つでしかありません。そのなかで日本を、日本の中の地域を選んでもらう理由はなにかと考え続けることがより重要になってくるでしょう。

「日本や地域のブランドってなんだろう?」と皆さんで考えてみてください。きっと盛り上がりますよ。世界に日本の魅力を伝えるにはまずは日本人がそれを確認する必要があり、世界に広げることによって日本の文化が数十年後にも残っていきます。インバウンド業界は今もっとも厳しい時期ですが、大きなチャンスでもあると捉えて頑張っていきましょう。

 

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