ミッションは「技術協力」と「高度外国人材の活躍の推進」~経済産業省 貿易経済協力局 技術・人材協力課 課長補佐(総括担当)  中山 保宏 氏~

今回は「外国人雇用とマネジメントの先人に学ぶ」コーナーの番外編として、経済産業省 貿易経済協力局 技術・人材協力課 課長補佐(総括担当) 中山 保宏 氏にご登壇いただきます。経済産業省の3つの機能とミッションについて、グローバルパワーユニバーシティ編集長の利重が伺いました。

経済産業省 貿易経済協力局 技術・人材協力課
課長補佐(総括担当)
中山 保宏 氏

外国人と縁深いこれまでのキャリアパス

利重 まず簡単に中山さんの自己紹介をお願いいたします。

中山氏 生まれは1974年、1996年に通商産業省(現、経済産業省)に入省、2020年11月に今の技術・人材協力課に着任し、日本国内における高度外国人材の活躍推進や海外における産業人材育成などを担当しています。

入省以来、主に通商や貿易政策を扱う現場でキャリアを重ねてきました。世界貿易機関(WTO)の貿易紛争解決プロセスに携わったのを皮切りに、国際的な化学物質管理ルールの策定などに従事、2007年からは外務省に出向し、在シドニー日本国総領事館 経済担当の領事としてオーストラリアに赴任しました。

今にして思えば、オーストラリアでの生活が多文化共生社会を目の当たりにした初めての機会だったと思います。かつてオーストラリアは白豪主義の国として知られていましたが、1970年代を境に多文化共生社会に変容しました。私が赴任した当時は、外国人や外国にルーツを持つオーストラリア人の方々が社会で活躍するのが当たり前で、とても活気に満ちた社会だったのが印象的でした。

その後、日本に帰任し、アジア太平洋経済協力(APEC)の下で貿易投資自由化の推進や経済連携協定(注:特定の国や地域間で結ばれる貿易や投資を促進するための国際ルール)の交渉を担当したほか、ラテンアメリカやカリブ諸国との経済交流の促進を担当しました。

これまで経験した部署では外国の方と触れ合うことが多くありましたが、高度外国人材が日本国内で活躍できるような環境作りに携わるのは初めての経験です。着任から一年経ちましたが、とてもエキサイティングで興味深い仕事という印象を持っています。

利重 「貿易」というとモノをやり取りするイメージが強いですが、人も含まれるのでしょうか。

中山氏 含まれます。例えば、経済連携協定の中には、「人の移動」と題する章を設けている場合があり、協定を締結するお互いの国の人が、相手国で働くためのルールを定めています。また、物品だけではなくサービスも近年では重要な位置づけを占めるようになってきていると思います。

経済産業省の3つの機能

利重 貿易経済協力局技術・人材協力課では、具体的にどのようなことをされているのでしょうか。

中山氏 当課の業務を説明する前提として、経済産業省が担う役割について説明させてください。大まかに言うと3つの機能に分かれています。

一つ目は、国内の様々な産業が個別に抱える課題を解決したり、競争力を上げたりするために何ができるのか、私たちは「縦割りの課題」といっていますが、その解決に日々取り組んでいます。

二つ目が、全ての産業や企業に横断的に関係する課題に取り組むことです。例えば地球環境問題、国際貿易ルールや中小企業対策など複数の業種にまたがるトピックにおける課題を見つけて改善していく、こちらは「横割りの課題」と呼んでいます。

三つ目が、エネルギーの安定供給確保、これも経済産業省の重要な仕事です。エネルギーは人が生きていく上で、また経済活動に必要不可欠のものですが、それをいかに獲得して円滑に届けられるかということも経済産業省が担っています。

ミッションは「技術協力」と「高度外国人材の活躍の推進」

中山氏 経済産業省 貿易経済協力局 技術・人材協力課は、二つ目の「横割の課題」に取り組んでいる部署です。主なミッションは「技術協力」と「高度外国人材の活躍の推進」の二つです。

どちらも人材育成という切り口は同じですが、「技術協力」は、日本が持っている技術や経験を開発途上国に持っていき、技術水準をレベルアップしていくことを目指しています。開発途上国で産業の担い手を育てることを通じて相手国の経済レベルを上げたり、社会の発展を実現させることが目的です。

また、開発途上国は日本企業の海外生産拠点という一面も持っていますので、その現場で活躍できる人を育て、彼らの技能や知識のレベルアップを通じて日本企業の国際競争力を高めていく事も非常に重要です。

そして、私たち技術・人材協力課のもう一つの役割が「高度外国人材の活躍の推進」です。高度な知識と技能を有する外国の方に日本企業で活躍をしてもらうための環境を整えることがミッションです。今、外国の方が日本で就労するために取得できる在留資格は19種類ありますが、主に「技術・人文知識・国際業務」と「高度専門職」に該当する人材に関する施策を取り扱っています。

高度外国人材の活躍推進のための2本柱、「高度外国人材活躍推進プラットフォーム事業」と「国際化促進インターンシップ事業」

中山氏 具体的には「高度外国人材活躍推進プラットフォーム事業」「国際化促進インターンシップ事業」という二つの事業を中心に活動しています。

「高度外国人材活躍推進プラットフォーム事業」は、2018年末に独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)に設置された枠組みで、主たる事業は次の三つです。

  • 1.インターネットのポータルサイトの開設

高度外国人材に関連する様々な情報をポータルサイトで提供しています。外国人の方々が日本で働く際に必要となる情報、例えば、在留資格、就職や生活サポートなどは色々な組織にまたがって存在しており、それぞれに情報収集をしなければならないのは複雑で面倒です。そこで、関係省庁や組織による協力の下、情報を集約し、このポータルサイトで一元的に情報を提供しています。

高度外国人材活躍推進ポータル https://www.jetro.go.jp/hrportal

  • 2.イベントの実施 (事業の説明会、ジョブフェアなど)

ハローワークを所管している厚生労働省、外国人留学生と関連のある文部科学省、地方自治体や大学などと連携を取りながら、高度外国人材の採用に関心のある企業と外国人材をつないでいく取組を行っています。

昨今の新型コロナウイルス感染症の影響で、実際に人が集まる大規模なイベントは開催できない状況でしたが、それに対処するためオンラインイベントに切り替えて継続し、どういう状況であっても、国内における高度外国人材の活躍推進のモメンタムを消さないように努力を続けています。

  • 3.伴走型支援サービス

こちらは、高度外国人材の雇用に関心はあるが具体的な検討方法が分からない、雇用してみたものの、そのスキルや知識を今一つ活かし切れていないなど、色々な悩みを抱えている中堅・中小企業を対象に、専属のコーディネーター(専門相談員)をつけ、文字通り一緒に走りながら課題の解決、就労環境の整備、採用後の安定的な定着までを支援していくサービスです。申し込み時に審査がありますが、無料でご利用いただけるサービスとして、利用企業から高く評価していただいています。

高度外国人材採用・定着を応援する伴走型支援 https://www.meti.go.jp/press/2019/04/20190405003/20190405003.html

将来的に「インターンシップ」は、オンラインと訪日型のハイブリッド形式で!

中山氏 当課事業のもう一つの柱は、「国際化促進インターンシップ事業」です。こちらも国内の中堅・中小企業が対象の事業です。

高度外国人材の採用に関心はあるけれどまだ踏み出せていない、採用実績はあるが、もう少し他の国や地域の方とも会ってみたい、まだエントリーレベルで経験がそれほど深くない企業の方々を対象に、海外在住の外国人材をインターンとして受け入れる機会を提供する事業です。高度外国人材採用のきっかけ作り、お試し体験の機会を提供しています。

コロナ禍前には実際に、海外から受け入れ先の企業に渡航し、一定期間インターンとして働いていただいていました。しかしコロナ禍で国をまたいだ移動ができない状況になり、昨年度と今年度の事業は渡航の必要がないオンライン形式でインターンシップを実施しています。全てオンラインで完結する形ですが、終わった後のフィードバック、アンケート調査で、企業、インターン、双方ともに非常に満足度が高いことが分かりました。

オンラインと訪日型、それぞれ一長一短があります。例えば実際に手を動かす、機械を動かすというような仕事はオンラインではできません。一方でIT系のプログラミング、マーケティング調査などはオンラインの方が効率よくできます。将来的にコロナが落ち着けば訪日型のインターンシップも復活をさせたいと思っていますが、業種によって相性もあるので、それぞれの良さを活かしハイブリッド方式で実施していければと考えています。

利重 企業、インターンそれぞれにとって、まずはオンラインで少し一緒に仕事をしてみるというのは、お互いに次の一歩が踏み出しやすくなりそうですね。

中山氏 実際の現場で感じることですが、年々高度外国人材の数は増えていますが、まだまだ活躍の舞台が大企業や大都市の企業が中心です。地方の中堅・中小企業にも広げていくことが課題だと感じています。

日本でもそうですが海外でも主要都市の人たちがやはり地理的にも有利です。地方の人達は、国外に出るにもまずは首都の空港まで行ってという距離的なディスアドバンテージがあります。しかしオンラインであればそういう障壁は気にせずアウトプットすることができるので、その辺りもオンラインの良さだと思います。

▶経済産業省 国際化促進インターンシップ事業 https://internshipprogram.go.jp/

「言葉の壁」と外国人材が戸惑う日本の「労働慣行」の改善~外国人材のために選択肢を増やす意義~

利重 これから地方の方や中小企業にもどんどん外国人材を活用してもらうためには、どうすれば良いとお考えでしょうか。

中山氏 高度外国人材に日本企業で活躍してもらうために克服するべきボトルネックは多すぎてきりがないのですが、分かりやすいものを二つあげるとすると、まずは、「言葉の壁」です。

外国の方に日本語を話していただくこともさることながら、やはり日本人も外国語を話し、外国の文化や世界のマーケットに歩み寄っていく必要があります。しかし地方の中小企業では、なかなかそこまで行きつくのは難しい、それが一つの大きな課題です。言葉の壁に関しては、今日やって明日できるというような話ではないので、地道に、お互いに分かり合おうというモチベーションが湧いてくるような広報や支援策を考える必要があると思っています。

アニメやゲームなどソフトパワーを入り口に日本に関心持って来て下さる外国人が非常に多いのですが、そういう層も大事にしながら、それ以外の層の方にもパイを広げていきたいと思っています。そのためには、日本で働くことがキャリア面で非常に有利になる、経済的にもメリットになるという具体的なイメージを持ってもらえるような外国人向けの広報が必要だと思います。

日本人に対しては、外国の人と働くことのベネフィットとは何か、個人や組織の成長にどんなプラスがあるのか、そういったベストプラクティスの紹介、また普及啓発のセミナー、読み物や動画などを通じて異文化の理解を促していくような機会を増やしていきたいと思っています。

もう一つ、個人的にも大きな課題だと感じているのは、日本の労働慣行や人事給与制度です。外国の方からみると摩訶不思議、理解しがたいものがたくさんあると思いますが、それをどうクリアしていくかが課題です。

実際に日本企業に入った外国人へのアンケートでも戸惑う点として、「人事」「給与」「働き方」などが頻繁に出てきます。それをどうしていくのかは国として考えなければならない課題で、マクロレベルのアプローチとして、この制度について根本的な問い直しをしていかなければならないと思います。

これらは日本社会が抱える構造的な課題でもあるので、私が所属する部署が先陣を切って変えていくというのは容易ではありませんが、実際に私たちは日々、外国人材や外国人を雇用している企業の方々と話をしますので、そこで得られた様々な指摘や問題点を、制度を変えるプロセスにインプットしていく、そういう形での貢献が私たちの課の役割だと思っています。

一方で、日本の制度の全てが悪いわけではありません。業界によっても事情が違いますので、気軽に相談できる場の提供もミクロレベルのアプローチとして重要だと考えています。

利重 外国人エージェントとして、日々、外国人求職者とお話をする機会がありますが、雇用がある程度保証されており、長期的な視点でキャリア形成ができる安心感を求めて日本企業への転職・就職を希望する方も少なくありません。反対に、短期集中で成果をあげる気持ちで来日している方にとっては、部長になるのは20年後で、年齢が上がらないと給料も上がらない、という日本企業を見限って外資系企業への転職を希望する方もいます。

中山氏 日本の会社の多くは、前提条件として入社したら一生勤め上げることが前提になっている制度設計です。一方で外国の方々は、チャンスがあればどんどんキャリアアップのために活躍の場を変えていくという考えを持っておられる方が少なくありません。両者は根本的に哲学が異なっていますので、どちらが正解というのはありません。しかし、今は、選択肢がほぼ一択だったり、選択肢がないというのが問題です。状況に応じて「こんな制度もチョイスできます」というように、人によって取れる選択肢が増えるのが良い状態だと思います。

利重 一律ではなくて、日本式のいいところも外資系のいいところも取り入れつつ、多様化、選択の幅が広がれば外国の方も働きやすくなりますね。

高度専門職1号、2号が創設されたり、特区で色々な在留資格・制度ができたりしていますが、それはニーズに合わせて経済産業省が働きかけて作るのでしょうか。

中山氏 経済産業省に限らず各関係している省庁がそれぞれの業界のニーズを吸い上げ、それを在留資格の制度の中に落とし込んでいくというような形式になっています。最近ですと、金融庁が力を入れている金融国際都市構想がありますが、高度専門職の要件の中にも金融にフォーカスした項目が追加されています。状況に応じて各関係省庁が制度を変える働きかけをしていきます。

高度外国人材の活躍で日本企業の競争力を強化!それが低迷する日本経済全体の底上げにも繋がる

利重 なぜ経済産業省は、ここまで熱心に高度外国人材の活躍推進を実現しようとしているのか、その先にどのようなことを期待されているのでしょうか。

中山氏 高度外国人材が日本企業で活躍することは、その企業の競争力の強化につながると考えます。具体的には三つのポジティブな効果が期待できます。

一つ目、ビジネスの多様化に繋がる
二つ目、イノベーションの創発に繋がる
三つ目、組織の活性化に繋がる

まず、ビジネスの多様化に関してですが、高度外国人材は外国にルーツを持った方々ですので、彼らを起点に海外取引を新たに始めたり海外進出を円滑にすすめたりすることが可能です。またインバウンド需要を取り込むというところで大きな役割を果たし、活躍することが期待できます。

二つ目のイノベーションの創発に関しては、日本人と外国人が共同作業をしていく中で、それぞれ単独では思いつかないような新しい製品やサービス、ビジネスモデルなどが生み出される効果が期待できます。

三つめの組織の活性化については、高度外国人材が日本の組織に入り、その一員になることによって多様性が高まるというのが一つの効果です。外国人がいることによって日本人側にとっても、様々な気づきや社員の意識改革、職場環境の改善、ひいては生産性の向上にも繋がっていくのではないかと思っています。

日本経済全体の底上げという意味でも、もっと多くの企業に、この三つのポジティブな効果が競争力の強化につながるということを知っていただけるように取り組んでいます。

利重 実際に企業側から「こういう効果があった」という事例はありますか。

中山氏 非常に面白いと思ったのは、国際化促進インターンシップ事業に参加していただいた企業のケースです。この企業は、ある植物を使った着色料(食品添加物)を開発していますが、着色料は人の口に入るものであるため、安全性を確認した上で、販売する国の当局の許認可を得なければいけません。

その植物は原産国では、地元の人に広く使われているものでしたが、非英語圏なので国際的にはあまり利用情報が出てきていませんでした。そこでインターンシップ事業で、原産国の出身者をインターンとして迎え、その方に現地の論文を集めてもらったり、分析してもらったりと現地に精通しているからこそできる役割を担っていただき、最終的に商品化にこぎつけることができました。

もともとローカルでしか利用されてなかったものに日本企業がまず目をつけ、その着眼点とそれを実際に製品にするまでの間に外国人材の知識、技能が役に立ったというケースです。新たな市場を創出するために、日本企業と外国人材のコラボレーションでそれが実現したという双方が噛み合いとても上手くいったという意味で印象に残っています。こういったケースが他の企業でも色々と出てくると面白いと思います。

外国人と働くことが当たり前の多文化共生社会を目指して

利重 当社のような外国人材の雇用を促進している会社に期待すること、また、こういうことをして欲しいというご要望はありますでしょうか。

中山氏 日本における高度外国人材の活躍は、質の面でも量の面でも伸び代があると思います。一番重要なのは普及・啓発ですが、公的機関だけですと限界がありますので、御社のように積極的に情報発信している企業ともっと連携して、お互いに知恵を出し合えるような関係を構築していきたいと思っています。

利重 最後に経済産業省として、また中山さん個人としての今後の意気込みや目標を教えてください。

中山氏 昨今は、国内でIT人材の不足が問題となっています。それを解消する一つの選択肢として高度外国人材の存在を多くの企業に知ってもらい、活用してもらえる取組を強化していくべきだと考えています。

また、外国人留学生については、わざわざ日本を選んで学びに来ていただき、卒業後も日本での就職を希望してくれる方が非常に多いと聞いています。仮に本国に帰っても日本との繋がりを生かしてくれるような人材をもっと大事にしないと、という問題意識を持っています。そういった人材の受け皿となるような企業を増やしていく取組の必要性を感じています。

究極の目標は、外国人材と働くことが珍しい事ではない社会の実現です。この理想の状態を実現するには経済産業省だけが頑張っても難しい状況です。企業、外国人材ご本人、関係する省庁、自治体、大学など、様々なステークホルダーと一緒に連携して進めていく必要があると思います。

そういう意味では経済産業省はあらゆる経済活動に関係しているので、幅広い分野のステークホルダーにアクセスが出来るというネットワークとフットワークが強みです。それを活かしながら、様々な方にお会いし、対話をし、利害を調整したり、また普段、合わないような人同士を結び付け新しい化学反応を促したりと、触媒のような役割を果たしていくことができれば非常に嬉しく思います。

ABOUTこの記事をかいた人

株式会社グローバルパワー 取締役 1979年 山口県生まれ。広島県の呉大学(現:広島文化学園大学)社会環境情報学部を卒業。大手人材サービス会社の営業を経て、2010年 外国人派遣・紹介サービスの(株)グローバルパワーに入社、2012年 取締役に就任。2017年 外国人雇用とマネジメントのすべてがわかるWEBサイト「グローバルパワーユニバーシテイ」編集長。