ビジョンフィットを重視した採用が、外国人スタッフの定着率や日本人のコミュニケーション能力のアップに貢献 ~外国人雇用企業へのインタビュー・WAmazing株式会社~

「外国人雇用とマネジメントの先人に学ぶ」第10弾は、WAmazing株式会社の経営陣3名にご登壇いただきます。WAmazing株式会社は、外国人旅行者を対象とした観光プラットフォームサービスを展開している企業です。全社員の40%を占める外国人スタッフが、さまざまな部門で活躍している状況を、グローバルパワーユニバーシティ編集部の利重が伺いました。

WAmazing(ワメイジング)株式会社
伊田 和哉 氏
取締役COO(最高執行責任者)

大内 昭典 氏
取締役CFO(最高財務責任者)

吉野 哲仁 氏
CTO(最高技術責任者)

外国人スタッフとの雑談が、そのまま事業のアイデアに直結

利重 御社の事業内容について教えてください。

伊田氏 WAmazing株式会社は、インバウンドに特化した観光プラットフォームサービスを提供している会社です。具体的には、アプリやウェブで宿泊施設やレジャー施設の予約ができるサービスや、日本の主要空港に専用機械を設置し、SIMカードを無料で提供するサービスなどを行っています。

吉野氏 訪日外国人旅行者が日本中を楽しみ尽くせるように、オウンドメディアによるオリジナルコンテンツ(日本の観光ガイド)の配信も行っています。記事はすでに2,000本を超えています。

伊田氏 残念ながら新型コロナウィルスの影響で、現在はアプリサービスもコンテンツの配信も一旦停止していますが、コロナ禍以前の2020年1月時点でWAmazingの累計会員数は32万人を超えていました。現在は、行政・地方自治体様向けの支援事業など、新たなサービスも展開しています。翻訳事業は、外国人スタッフの雇用維持のために開始した事業ですが、ありがたいことにたくさんのご依頼をいただき、スタッフを増員するまでになっています。

利重 現在、社員数はどれくらいなのでしょうか。

伊田氏 2021年7月時点で、ちょうど100名(※上海現地法人採用者含む)です。そのち40名が外国人スタッフです。台湾(19名)、中国(10名)、香港(7名)をメインに、イギリス、アメリカ、ベトナムなど数カ国のスタッフが在籍しています。

利重 会社の設立当初から、外国籍の社員を採用していたのですか。

伊田氏 設立と同時ではありませんが、比較的早い段階から外国人スタッフの採用を開始しました。サービスを構築していく中で、翻訳が必要になったからです。最初の頃は外注に出していたのですが、翻訳ができるスタッフが社内にいれば、より柔軟に対応できるし、サービス内容も充実すると考えました。現在では翻訳をはじめ、マーケティング、オウンドメディアの制作、カスタマーズサポート、エンジニア、デザイナーなど、外国人スタッフの活躍の場は多岐にわたっています。

利重 さまざまな部門に外国人スタッフを採用したことで、事業にはどのような影響がありましたか。

伊田氏 当社はインバウンド向けの事業なので、外国人スタッフの情報や意見は事業のアイデアに直結します。例えば、日本のチューハイが台湾で人気があるとか、日本人は行かないけど台湾出身者は日本のこういう場所に興味を持っているなど、リアルな日常生活や現地の人しか知らないような情報を身近な人間から収集でき、雑談レベルの話でも事業に生きることが多々あります。

吉野氏 外国人スタッフはもともと自分自身がインバウンドの旅行者だったケースが多く、初めて日本に旅行に来た時に感じたことを聞くだけでもヒントになります。こういう案内があったらいいのにとか、こういう案内に助けられたなど、体験談として聞けるので、いい意味でも悪い意味でもサービスに反映することができます。

大内氏 日本人の視点だけではわからない勘所を察知する能力にたけているので、ミーティングでも彼らの意見を尊重するようにしています。また、スタッフ同士も日常会話を通じてそれぞれの国の文化や風土を知ることができ、会社内で異文化体験ができているように感じます。

(左上:WAmazing株式会社 取締役COO 伊田氏、左下:WAmazing株式会社 取締役CFO 大内氏 右下:WAmazing株式会社 CTO 吉野氏)

国籍の違いによる齟齬が、コミュニケーション能力の向上につながる

 

利重 外国籍の社員を採用することで、コミュニケーションで苦労した点をお聞きしたいのですが、社内では何語がメインになっているのでしょうか。

伊田氏 当社の場合、基本言語は日本語です。外国人スタッフの採用には、日本語能力試験の最高レベルであるN1の取得、またはN1相当の日本語能力を条件としています。それ以外は、日本人も外国人も採用基準は変わりません。

吉野氏 外国人スタッフの日本語能力が高いとはいえ、ネイティブではない言語でのコミュニケーションは、やはり日本人同士よりも難しい部分があります。しかし、ルールや仕組みを工夫してその都度対処することで、間違いなく齟齬は減っていきます。

伊田氏 スタッフ同士のやりとりを見ていると、お互いに伝えたいことがうまく伝わらない、言っていることはわからないなど、悶々としている印象を受けることがあります。日本人のマネージャーからすれば1から10まで説明せずとも行間を読んでくれという思いがあり、外国人スタッフからすれば曖昧な表現を理解するのは難しい。

利重 たしかに、日本人は曖昧な言い方をよくしますよね。相手を尊重するための手段でもありますが、外国人には伝わりにくいかもしれません。

伊田氏 ストレートな表現を用いての説明も必要ですが、日本人ならではの柔らかさや細やかさも大切です。外国人スタッフが、言いたいけどうまく表現できないことを引き出してあげるようなコミュニケーションが可能になるからです。例えば「こういうことが言いたいの?」と傾聴しながらコミュニケーションをとることで、たいがいのことは解決できます。

吉野氏 話すスピードや言葉の選び方など、外国人スタッフへの説明は日本人に対するよりも、より丁寧さが求められるので、最初の頃はみんな大変だったと思います。ただ、そのおかげで一方的に伝えるのでなく、相手がどのように理解しているかをしっかり確認する術が身につきました。

相手の表情を見ながら、理解できていないようなら繰り返し説明する、理解したことを外国人スタッフ自らの言葉で説明してもらうなど、かなり意識してコミュニケーションを図っています。そのせいか、日本語のいいトレーニングにもなり、日本人の日本語能力も上がっているように感じます。

伊田氏 コミュニケーション能力もずいぶん向上したと思います。外国人スタッフへの丁寧な説明は、日本人の若手スタッフの指導にも活かせます。

社員の定着率アップの秘訣は、採用時にビジョンフィットの度合を見極めること

利重 特に外国人スタッフの定着率が高いとお聞きしましたが、工夫されていることはありますか。

伊田氏 採用時にビジョンフィットについて確認していることが大きいのではないでしょうか。「日本中を楽しみ尽くす、Amazingな人生に。」という当社のビジョンは非常にわかりやすく、同じようなビジョンを掲げている会社はありません。ビジョンフィットの度合いを重視することで、リテンションにも効果があります。

利重 定着率を上げるために、社員に対してはどのようなことをされていますか。

伊田氏 平均して週に一回、30分程度のワンオンワンを実施しています。全スタッフに行っていることですが、特に外国人スタッフの場合、定期的にキャリアに関するコミュニケーションを図ることは大切です。彼らは日本人よりも成長したいという思いを強く持っているからです。そのために日本に来ているので、将来のビジョンを聞き、そこを目指すなら今の仕事でこういうふうに頑張ったらいいのではないか、などと話し合います。仮に仕事に飽きてきたメンバーがいたとしても、先々のビジョンに今の仕事がどう活かせるかを一緒に考えることで、踏ん張れるのではないでしょうか。

利重 ワンオンワンは部署ごとに行っているのでしょうか。

伊田氏 基本は直下のメンバーですが、必要だと思えば部署を超えて行うこともあります。グループや組織のミーティングでは言いにくいことも率直に話してくれます。こう成長したい、こうありたいといった話を聞くことで、スタッフの性格や考えがわかるので、我々にとっても理解を深めるためのいいきっかけになります。

利重 そのほか、外国人スタッフを受け入れるにあたって気をつけていることはありますか。

伊田氏 最近は新型コロナウィルス感染症拡大の影響で難しい状況ですが、歓迎会や定期的な懇親会など、オフの場でのリレーションは大事だと思っています。以前は、日本の文化を体験してもう企画を実施していました。例えば、節分には会社で恵方巻きを食べたり、春には花見に出かけたり、秋には果物狩りに出かけたり、社内で焼きそばや、わたあめなどの出店を設置してお祭りを開催したり。できる範囲で企画を考えて再開したいと思っています。

 

日本企業は外国人のチャレンジ精神を真摯に受け止める覚悟を持つ

利重 外国人が日本で活躍するために、日本企業はどうあるべきだと思いますか。

伊田氏 国籍にかかわらず、よい人材が集まり彼らに活躍してもらうために企業がするべきことは「企業の魅力度を上げる」ことに尽きるのではないでしょうか。仕事自体にやりがいがあるのはもちろん、成長できるイメージを思い描ける、働きやすい環境、そこに尽きると思います。

吉野氏 これはとても残念なことですが、当社の面接を受けてくれた方や、採用に至った外国人スタッフなどから、「外国人に対して差別のない会社で働きたい」という声を聞くことがあります。裏を返せばそういった企業があるということです。外国人に門戸を開いたなら、日本人と平等に対応するのは当たり前のことです。

ただ、日本人に差別意識がなくても、日本人の多い環境ではコミュニケーションのとりにくさを感じる外国人は多いと思います。だからこそ、外国人を受け入れる企業はコミュニケーション方法を工夫し、社員同士のコミュニケーションが活性化するようサポートする必要があるのではないでしょうか。

大内氏 たしかに、日本企業しか知らない日本人のなかには、外国人を下に見てしまう人もいるかもしれません。外国人を採用しようと決めた時点で、企業は彼らに期待している部分があるわけですから、気持ちよく働いてもらう工夫は必須です。

そこで重要なのは、外国人スタッフが自分は必要とされていると実感できることだと思います。信頼されていないと感じれば誰だって嫌だし不安になります。私自身、中国で約8年間働いた経験があり、周りはみんな中国人でした。私の場合は自分の役割をきちんと定めてもらい、そこに対して貢献するという目標が見えていたのでとても働きやすかった。そこが見えないと、不安になって孤立してしまいがちです。受け入れる側が意識して体制を整えないとお互い不幸になってしまいます。

利重 大内さんは中国で働いていた時、差別を受けるなどの経験はありましたか?

大内氏 そういう経験はありませんが、中国語をもっとうまく話せればもう少しコミュニケーションがとれたと思います。そういう意味では、受け入れ側の姿勢だけでなく、外国人雇用者の努力も必要です。日本に来る人は、違う環境でチャレンジする意識、一旗あげてやるといった覚悟が大事であり、企業にはその気持ちを真摯に受け止める覚悟が必要ではないでしょうか。

求めるスペックに応じた人材を得るには、国籍を取り払うことも選択の一つ

利重 日本企業は外国籍の社員をどんどん採用していくべきだと思いますか。

伊田氏 外国人はもちろん、日本人でもワーキングマザーや地方・海外在住のリモートワーカーなど、多種多様な考え方を持つ人が増えています。そういった人材を採用することで引き出しが増え、組織強化につながります。また、日本の労働人口がどんどん減っていく中、外国人の労働機会を作っていくことが、これからの日本の成長には欠かせないと思っています。

吉野氏 最初はコミュニケーションの工夫など、大変なこともありますが、企業を大きくしていきたいと考えるなら、積極的に外国人を採用することでプラスになることは多々あります。そして、当社の面接に来るみなさんや外国人雇用者から「差別のない会社で働きたい」という声がなくなることを期待しています。

大内氏 これからの時代、企業をあげてのグローバルな課題解決は必須です。そういう意味でも、新しい人材を取り入れていくことが必要不可欠なのではないでしょうか。

利重 多くの企業でリモートワークが定着してきた今、地方在住者まで採用の間口が広がったという記事を目にしました。御社はこれからの人材採用をどうお考えですか。

伊田氏 当社にはすでに沖縄や福岡、大阪、新潟など地方在住のスタッフがいます。

吉野氏 日本のみならず、海外在住者の現地採用にも動いています。コミュニケーションに支障の出ない時差を考えるとアジア圏になりますが、台湾在住の台湾出身者が入社予定です。彼女は日本で仕事をしていた経験があり、コロナが落ち着いたらまた日本に戻ってきたいという意向があります。エージェンシー経由で「しばらくは台湾でもいいか」という打診があったので、当社としては問題なく採用しました。

利重 そこまで選択肢を広げる理由を教えてください。日本人よりも外国人のほうが優秀な人材が多いという印象はありますか。

吉野氏 当社の場合は、単純に門戸広げることで良い人材が集まる可能性が高まるのではという考えからです。外国人だからいいとか、日本人はダメという理由ではありません。インバウンドを顧客にしたビジネスなので、外国人スタッフの採用が事業にプラスに働くことが多いというのはたしかですが、コロナ禍を経て、リモートワークという働き方が可能になった現在、日本人だけに採用を絞ってしまうのはもったいないと思います。

利重 最後に、今後のビジョンについてお聞きできますか。

伊田氏 採用に関してはどんどん門戸を広げて、日本人、外国人にかかわらず、当社が求めるスペックに応じた良い人材を採用していきたいと思っています。そして、スタッフに持てるスキルを発揮してもらうだけでなく、さらなる成長を支援しながら、価値ある人材を育てていきたいと考えています。

また、オウンドメディアや翻訳の部門ではすでに外国籍の責任者やリーダーが誕生していますが、今後はマネジメントや経営にも携わってもらえる外国人スタッフが育つことを期待しています。

ABOUTこの記事をかいた人

株式会社グローバルパワー 取締役 1979年 山口県生まれ。広島県の呉大学(現:広島文化学園大学)社会環境情報学部を卒業。大手人材サービス会社の営業を経て、2010年 外国人派遣・紹介サービスの(株)グローバルパワーに入社、2012年 取締役に就任。2017年 外国人雇用とマネジメントのすべてがわかるWEBサイト「グローバルパワーユニバーシテイ」編集長。