「1を聞いて10を知る」は通用しない。外国人雇用はイノベーションが起こり、新たな事業につながる可能性も 〜ポーターズ株式会社

外国人雇用とマネジメントの先人に学ぶ」第11弾は、ポーターズ株式会社の取締役副社長・渡邊智美氏にご登壇いただきます。日本国内の人材紹介ビジネス市場におけるクラウドサービスNo.1のシェアを誇る同社は、新たにアジアマーケットへの進出や人材派遣市場に踏み出しています。さまざまな挑戦を続けるポーターズ株式会社の状況を、グローバルパワーユニバーシティ編集部の利重が伺いました。

ポーターズ株式会社
渡邊 智美 氏
取締役 副社長

小学校から高校までをアフリカで過ごし、日本大学 文理学部 卒業後、ベンチャー起業支援のインターウォーズ㈱にて経営企画ならびに人材紹介ビジネスの立ち上げ・運営に従事。2001年8月ポーターズ設立。2002年に人材紹介業務支援システム「プロ・エージェント」をリリース。2009年には業界初の専門誌として人材紹介ビジネス支援マガジン「ポーターズマガジン」を創刊、編集長として毎号人材ビジネスの最前線で活躍し続ける業界の方々に密着した内容を発信。2012年にはよりカスタマイズ性の高い人材ビジネス向けクラウド型総合管理システム「HRビジネスクラウド」をリリース。

派遣エンジニアから始まった外国人社員の採用

渡邊氏 ポーターズは、「Matching, Change your business」をミッションに、「世界中の人材マッチングの最適化を通じ 企業活動をドライブする」をビジョンに掲げ、事業を展開しています。具体的には、人材ビジネス企業に向けたシステムを開発し、販売する事業です。現在は「HRビジネスクラウド」の市場拡大を目指しています。

「HRビジネスクラウド」は、最適な業務フローを簡単に設計できたり、求人・求職者などのデータを一元管理し最適なマッチングを行ったりするためのシステムです。英語にも対応しており、現在、11か国で使用されています。

利重 現在、社員はどれくらいいらっしゃるのでしょうか。

渡邊氏 約60名で、そのうち4割が外国籍の社員です。韓国、中国、トルコ、ケニア、イギリス、イタリア、台湾、マダガスカルなど、出身国は多岐におよびます。

利重 外国人社員はどういった職種で活躍されていますか。また、外国籍の社員を採用するようになったきっかけを教えてください。

渡邊氏 エンジニア部門と営業部門でメインに活躍しています。そもそものきっかけは「HRビジネスクラウド」のアップデートプロジェクトのために、エンジニアを募集する必要に迫られたことでした。当時、ITエンジニアの需要がうなぎ登りで、小さな企業は優秀な日本人エンジニアの採用が厳しくなっていました。あるエージェントに相談したところ、6名の外国人エンジニアを派遣してくださったのですが、彼らが非常に優秀でした。その後、派遣社員から正社員に登用したのをきっかけに、外国人採用が始まりました。

営業職の採用については、2014年8月のシンガポール法人(ポーターズグローバル)の設立がきっかけです。シンガポールを拠点にベトナムやマレーシア、インドなどに事業展開していく計画だったため、国籍問わずに英語でもセールスができる人材ということで、インド出身者やケニア出身者を採用しました。

利重 外国人社員はポーターズグローバルで活躍されているのですか。

渡邊氏 いいえ、日本国内で採用し、日本国内向けでも仕事をしています。営業チームの外国人スタッフは日本語が堪能なので、国籍問わずにチームを作り案件を振っています。

外国人スタッフは日本で働きたいという気持ちの強い人が多く、かつ当社の営業育成プログラムが整っていたこともあり、社員育成はとてもスムーズに進みました。現在、営業チームのマネージャーには外国人社員が就いています。彼女の下に8名の部下がいますが、そのうち7名は日本人です。普段は日本語で会話しています。また、新規事業を手掛けるチームでは、日本人1名以外は外国人社員で、マネージャーも外国人社員が担っています。

利重 日本人と外国人の採用に異なる基準はありますか。

渡邊氏 エンジニア以外の外国人の採用は、基本的に日本語能力試験のN1取得者を条件にしています。システムの説明や導入後のフォローなど、やはりセールスは日本語での会話が支障なくできるレベルでないと難しいと思います。国籍による採用の違いはそれくらいですね。

「1を聞いて10を知る」は通用しない。1から10までの丁寧な説明でトラブルを回避

利重 多国籍の人たちが一緒に働くことで大変なこともあると思いますが、メリットは何だと思いますか。

渡邊氏 日本にいながら異文化交流ができることです。今はコロナの影響で難しい状況ではありますが、飲み会などでワイワイ騒いで盛り上がりながら、それぞれの文化を知ることができるので、スタッフたちの視野が広がります。

また、飲み会の場で「海外の拠点を増やしていきたいと考えている」など仕事の話をすると、こうしていきたい、ああしていきたいなど、前向きでいろいろな意見が出てきます。プライベートと仕事のバランスがよく、一緒に会社の未来を考えられるのは、多国籍企業ならではだと感じます。

利重 バックグラウンドが違うがゆえに起こったトラブルなどがあれば教えてください。

渡邊氏 パーソナルスペースの違いによるちょっとした諍いはありましたね。例えば、インド出身者は親しくなった相手や、より親しくなりたい相手とは、物理的な距離感がものすごく近くなります。しかし、多国籍企業で働いたことのない中国や韓国の女性は、その近すぎる距離感に拒否反応を示すことがあります。インド出身者にしてみれば仲間に対する親しみの行動でも、そう捉えられない人もいました。

また、好き嫌いがはっきりしている外国人の場合、ストレートな言い方をしてしまい、険悪な雰囲気になってしまうことも少なくありません。もちろん、母国語ではない言語での会話なので仕方のない面はあります。ただ、それが社内だけでなくお客さまへの対応にも影響する可能性がありますので、日本で仕事をする以上、その辺は少し配慮して言葉を選んだほうがいい、などのアドバイスはします。

利重 そういう場合、渡邊さんが間に入って調整するのですか?

渡邊氏 以前は、互いの文化の違いを話し合い、理解できるように、私が間に入っていました。最近は、在籍の長いスタッフも多くなったので、新しいメンバーが入社してくると、彼らが先輩として自分たちの経験から、助言やケアをしてくれるようになりました。

利重 仕事の進め方など、業務面で困ったことはありますか。

渡邊氏 「1を聞いて10を知る」という、日本人なら当たり前のように身につけている感覚が通用しません。ざっくりとした指示には、ざっくりとした結果しか望めません。

私も最初の頃は、「これを説明すれば、普通ここやあそこにも派生させるよね」と思うことがたびたびありました。そこで、外国人社員に「どうしてやってないの?」と聞くと「指示がなかったから」という答えが返ってくる。なるほど、と思いました。1〜10まで、やってほしいことはすべて説明する必要があることを学びました。説明すればきちんと理解し、業務を遂行してくれます。

利重 たしかに、さまざまな多国籍企業の方々から同じような話を聞きます。逆に細かく指示を出すようになったことで、トラブルが減るという利点につながったケースもあるようです。

渡邊氏 それはありますね。ただ本来、外国人社員に限らず、必要な説明はするべきなのだと思います。実際に当社で作成している営業育成プログラムは、もともと日本人社員用に作ったものですが、相当細かく必要事項を明記しています。トラブルを減らすためには、日本人も外国人も関係なく、丁寧な説明は必要不可欠なのに、日本人は「1を聞いて10を知る」という部分に期待してしまいがちですよね。これは多国籍企業だからこそ、気づける点かもしれません。

社員の定着率アップのために、ときには雇用形態を見直すことも必要

利重 先ほど在籍の長いスタッフが増えてきたというお話も出ましたが、社員の定着率アップのために工夫していることはありますか?

渡邊氏 リーダーとメンバー、マネージャーとリーダーなど、1on1を実施してコミュニケーションをとるように心がけています。コロナ禍になってからはリモートではあるけれど、チームミーティングを以前よりも頻繁に行うようになりました。特に外国人社員の中には、長期休暇があっても自国に帰れず、ホームシックで精神的に不安定になっているメンバーもいます。マネージャーが配慮して、なるべくスタッフたちの顔を見て様子をうかがってくれています。

実は今年になって、韓国人の男性スタッフから帰国するので退職したいという申し出がありました。彼には韓国に婚約者がいて、新型コロナウイルス感染症の影響がなければ結婚して婚約者が日本にくることになっていました。それが難しくなり、彼が会社を辞めて帰国するという選択をしたのです。ただ、とても優秀な人材だったので、これからも当社で働いてもらいたいという思いから雇用形態の見直しをしました。彼に個人事業主になってもらい、委託という形で仕事を発注することにしたのです。新型コロナウイルス感染症の影響でリモートワークが可能だとわかったことも踏み切れた理由のひとつですが、これは例外的な対処ではなく制度化しました。今後、帰国を余儀なくされた外国人社員にも、当社で働き続ける道がひらけたことは、結果的に良かったと思います。

利重 柔軟な雇用形態の変化は、今後の社員定着率アップにつながる可能性が高いですね。他には何かありますか?

渡邊氏 なるべくストレスを感じず、かつ正確に内容を理解してもらうために、重要なミーティングの資料や雇用契約書などは、日本語だけでなく英語バージョンも作成しています。特に当社はPマークや情報セキュリティーなど、情報を扱うためのサポートをしているので、その辺の意識を高めてもらう必要があります。日本語の資料だとニュアンスが伝わりにくいことがあるため、重要なドキュメントは日本語と英語バージョンを用意するようになりました。外国人スタッフには好評です。

意識や意欲が高くキャッチアップ能力が高い外国人、ビジョンが共感できるなら積極的に受け入れることをおすすめ

利重 外国人を雇用するのに躊躇している日本企業はまだまだ多いと思います。そういった企業に対してアドバイスをお願いします。

渡邊氏 異国で働くことは、とても覚悟のいることです。母国語以外の言語を学び、ましてやそれで仕事をするというのは並大抵の覚悟ではできません。実際に日本において日本企業で働きたいという外国人は、意識や意欲が高く、キャッチアップ能力も高いと感じています。そこに期待してとりあえず採用してみるのもいいのではないでしょうか。業務の内容や会社の方向性など、ビジョンが共感できるのなら積極的に受け入れることをおすすめします。

たしかに、言葉や文化の違いによる問題は多少なりとも発生します。マナー教育や異国で働くがゆえの精神的なケアが必要なこともあります。受け入れる側も文化の違いを理解し、コミュニケーションによってお互いに歩み寄る。そうして、採用者の国の文化に触発されてイノベーションが起こり、新たな事業につながる可能性もあります。

利重 最後に、今後の展望をお聞かせください。

渡邊氏 すでにシンガポールに拠点はありますが、CTOと営業の2名が在住しているだけで、海外組織というよりも一部門といった感じです。今後は小さくてもいいので、ローカルのニーズをキャッチアップしてシステム化できる開発チームを、シンガポールをはじめとした東南アジア諸国に作りたいと考えています。当然、マーケティング活動も各国の拠点で展開したいと思っています。

そのためには、シンガポール、タイ、インドネシア、ベトナム、マレーシアなど、自分の国に貢献したい、母国の雇用に貢献したいという人材を中心に採用していきたいと考えています。

利重 現地採用ということでしょうか。

渡邊氏 その辺りも柔軟に考えていければと思います。日本で働きたいという希望があれば、リモートで現地の活動に貢献する方法もあります。例えば、ベトナム出身の社員が日本で働きながら、ポーターズグローバルではベトナムのお客さまへのシステム導入のサポートをしたり、ローカルメンバーのトレーニングをしたりするイメージです。ビジョンが共感できれば、日本が拠点でも良いと思っています。

サービス内容は同じでも、より顧客に寄り添う必要があるサポートは、ローカライズされたやり方を取り入れるべきだと思います。そのためには、ローカルと意思疎通できる人材は必須。同じ国の人というだけでも安心感や信頼度は違うと考えています。今後はそういった視点で人材採用に取り組むことでユーザーのサポート体制を強化し、世界中の企業の生産性向上や雇用拡大に貢献できれば、こんなに嬉しいことはありません。

ABOUTこの記事をかいた人

利重直子

株式会社グローバルパワー 取締役 1979年 山口県生まれ。広島県の呉大学(現:広島文化学園大学)社会環境情報学部を卒業。大手人材サービス会社の営業を経て、2010年 外国人派遣・紹介サービスの(株)グローバルパワーに入社、2012年 取締役に就任。2017年 外国人雇用とマネジメントのすべてがわかるWEBサイト「グローバルパワーユニバーシテイ」編集長。