まもなく、新元号「令和」を迎える日本、入管法改正でますます日本で働く外国人が増え、日本の職場は多国籍になっていきます。今回は、多国籍で多様性ある人材が活躍してもらうための職場づくりと、令和時代の日本人ビジネスパーソンがみにつけるべき「異文化コミュニケーション力」についてお伝えします。
平成は職場が多様化した時代、令和はさらに多様化が加速
「昭和」の高度経済成長期の日本企業は、日本で生まれ育った20代~50代の日本人男性が中心に、平日は朝から夜まで仕事、土日もゴルフで接待など、人生の大半を仕事に費やし、日本経済をリードしてきました。
そして「平成」、バブル崩壊・世帯年収の減少・共働き世帯の増加・総人口の減少・高齢社会への突入・未曾有の人不足・単純労働における外国人労働者の受け入れ拡大と社会的に大きな変化があった時代となりました。
平成時代の職場での働き手は、かつて高度経済成長を支えてきた日本人男性だけではなく、女性・子育て世代・介護世代・高齢者・外国人・障がい者・LGBTなど、限られた時間しか仕事ができない働き手やまったく違う価値観、特性をもつ働き手が加わり多様化してきました。
そして、令和時代を迎える日本は、入管法改正によりますます外国人の働き手が増え、日本の職場は多国籍に多様化していきます。
人間は、どの人種・国籍であっても、泣いたり、笑ったり、怒ったりという生物的な感情や本質は一緒です。ただ、同じ人間とはいえ、生まれた環境や文化によっての物事の受け止め方やコミュニケーションスタイルは違います。
オフィスシーンでいうと、時間の概念、相手とのコミュニケーションスタイル、残業に対する考え方、リーダーシップの在り方、議論の進め方、信頼関係の構築方法など実に様々なテーマで日本の文化とは違うビジネスマナーや考え方が存在します。
日本人は世界で一番わかりにくいコミュニケーションスタイル
では、実際に、異文化で育った外国人ビジネスパーソンと日本人が同じオフィスで働いた際、どのような現象が起きるのかをみていきましょう。
シーン1
日本人上司と外国人部下がクライアント先の社長と商談を済ませた帰り道、日本人上司が外国人部下に「お客様と商談するときは、足を組まないほうが良いですよ」と注意をしました。外国人の部下は「はい、わかりました。」と回答。翌日、クライアント先に訪問した際、外国人部下は、またクライアントの前で足を組んでいました。日本人上司は「注意をしたのに態度を改めない。」「お客さまの前で足を組むことのリスクが伝わらない。」と、苛立ちを感じてしまいます。
シーン1の解説
これは何が起きているかというと、「足を組まない方が良いですよ」と注意された場合、一般的な日本人であれば今までの経験から「やってはいけない」と同等の意味だと理解し、態度を改めますが、外国人部下は「お客さまと話をする時、足は組んでも良いですが、組まない方がよいですよ。」という、日本語の文法どおり・言葉どおりの受け止め方をした為、翌日、クライアントの前でまた足を組んでしまいました。
「ハイコンテクスト文化」という言葉をお聞きになったことはありますか。
アメリカ合衆国の文化人類学者、エドワード・T・ホール氏が提唱した概念で、世界の文化は「高コンテクスト」と「低コンテクスト」とに分類できるというものです。
ハイコンテクスト文化は、いちいち言葉で表現しなくても、状況や文脈で伝えたいことを相手が理解してくれるという文化です。日本がその最たる例で、もっともハイコンテクストな国だと言われています。対して「ローコンテクスト文化」とは、曖昧さを出来る限り排除し、伝えたい情報がすべて明確な言葉で表現される文化で、ドイツやスイスなどがこれに当てはまると言われています。
シーン1の対策
日本人上司はどう注意をすれば良かったのでしょうか。「お客さまの前で足を組んではいけません。なぜなら、日本では目上の人の前で足を組むのはマナー違反です。そうした態度があなたと会社の評価を下げ、取引にも影響をします。だから、足を組む事はやめてください。」と明確な言葉で、その理由とデメリットまでしっかり伝えます。この伝え方であれば、どんな文化圏の外国人であっても、注意をされた理由と態度を改めるべき理由が理解してもらえるのではないでしょうか。
すべての外国人が、このように伝えないと理解をしてもらえないかというと、そうではありませんが、ハイコンテクストの極みである日本からすると、ほとんどの外国人が「行間を読んでくれない」「察してくれない」と思った方が間違いないでしょう。
シーン2
あるキャンペーンの企画会議が行われました。日本人社員がキャンペーンの企画内容をプレゼンしたところ、外国人の同僚から「この企画には反対です。この企画になった根拠がわかりません。ターゲットに十分なリサーチはしたのですか?」と意見がありました。企画をプレゼンした日本人社員は、自分のリサーチが甘かった事は認めるものの、外国人社員のストレートで厳しい言い方が好戦的に感じられ、人格を否定されたような気持ちになりました。「もしかしたら自分は嫌われているのだろうか」と考えてしまいモヤモヤしてしまいます。
シーン2の解説
このような状況のとき、日本人の同僚であれば「とても良い企画だと思います。ただ、もう少しターゲットへのリサーチが必要な気がします。」というようにソフトな言い方で対立を回避しながら意見を述べるところを、ここで登場する外国人社員はストレートに自分の意見を述べます。会議の場では、問題提起や反対意見を述べる事で、議論が活発になり、より良い企画になるとさえ考えています。プレゼン相手が「嫌い」などという感情は一切ありません。意見の対立は人格否定ではないのです。
シーン1にしても、シーン2にしても、日本人ビジネスパーソンが「生まれ育った文化によって物事の伝え方や考え方が違う」という事を知らなければ、いつまでも「伝わらない」と苛立ちを感じたり「嫌われているのではないか」と被害妄想に陥りストレスをためるばかりです。外国人社員にとっても組織になじめずお互いに不幸です。
日本人にとって、いちいち明確な言葉で伝えなければならない事や、意見と感情を切り離す事に慣れるまでは、とても苦労をする事になるでしょうが、慣れてしまえば組織全体のストレスを解消できるのです。
日本人は自分たちの言葉が、いかに曖昧でわかりにくいコミュニケーションであるかをよく理解しておく必要がありますし、反対に、日本企業で働く外国人には、日本人が曖昧な表現で仕事の指示をしがちな事や、対立する議論を個人的な感情で受け止めやすい傾向を知っておいてもらう必要があるでしょう。
異文化理解は外国人に活躍してもらう組織づくりの第一歩
外国人に活躍をしてもらう組織づくりの第一歩は「異文化の相互理解」です。生まれ育った文化によって物事の捉え方が違うことを知り、世界には多様な価値観があることを知る事、そしてお互いに歩みより理解をする努力をする事です。
これは、なにも外国人だけではありません。子育て世代、介護世代、高齢者、障がい者、LGBTなども同様です。
知らないが故にお互いがストレスを溜めて力を十分に発揮できない組織にならない為にも、異文化理解・異文化コミュニケーションを学ぶ機会は、日本人ビジネスパーソンにとって必須科目と言えるでしょう。
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