フォーリノミクスは日本経済を救うカギとなる
利重 さっそくですが、竹内さんが提唱している「フォーリノミクス」とはなんでしょうか。
竹内 「フォーリノミクス(Foreignomics)」とはForeigner(外国人材)とEconomics(経済)を掛け合わせた造語です。ひと言で表すと「外国人材が活躍できる社会づくりを通じて、日本経済を活性化すること」です。
考え方としては、1999年以降 労働人口の減少が問題視されるなかで推進してきた「ウーマノミクス」と同じです。ウーマノミクスは政府・企業が連携して取り組んだ結果、女性の就業率の引き上げや育児休業制度の整備などを改善してきました。まだまだ、改善の余地は大きいですが、女性が活躍しやすい環境づくりは、日本経済にとっても大きなプラス要因になってきていると捉えられています。女性リーダーの不足や賃金格差など課題は残っているものの、女性にとって働きやすい環境が整えられてきました。
しかし、日本の労働市場はますますひっ迫しており、もはや国内だけで解決できる規模ではなくなっています。外国人材の重要性を伝え、世の中の流れを変える次の一手としてフォーリノミクスという概念を考案しました。
利重 フォーリノミクスで外国人材が活躍できる社会を作ると、どのようなことが実現できるでしょうか。
竹内 「イノベーション」、「国際競争力アップ」、「DEI(※)推進」、この3つがキーワードになると考えています。(※ DEI…すべての人が安心してよりよい社会を生きるために欠かせないDiversity(多様性)、Equity(公平性)、Inclusion(包括性)の3つの要素のこと。多様性の尊重、公平性に対する意識が高まるなかで欧米を中心に広がった考え方。)
労働力が激減するなか、大量生産・低価格競争という日本の従来の戦い方を世界に展開し続けるのは限界があり「イノベーション」を起こす必要があります。同じ国、言語、社会で育った人間だけで、大きなイノベーションを起こすのは難しいでしょう。新卒入社から20年間・転職無しの1社入魂のおじさんだけを集めて、新規事業やイノベーションが起こせるでしょうか。一緒に働いていただける人たち、協力をしていただける人たち、全てを巻き込み、活躍していただくべきではないでしょうか。
フォーリノミクスによって多様な能力・価値観・志向性を取り入れることで、新たな市場創出が実現できるでしょう。そして、この先グローバルビジネスを拡大展開するうえで、日本のヒト・モノ・カネ・サービスのすべてをどのように売り込んでいくかが重要となります。フォーリノミクスによって「国際競争力アップ」が期待でき、競争優位性の構築が実現します。
「DEI推進」はフォーリノミクスと切り離すことができない重要なキーワードであり、日本経済の回復・成長に大きく関わっています。フォーリノミクス推進で目指すのは多様な人を尊重してみんなが活躍できる社会になること。フォーリノミクスに取り組むことはDEIの推進につながり、DEIの達成はフォーリノミクス推進に直結しているといえるでしょう。
利重 外国人材の活用なくして3つのキーワードは達成し得ないということでしょうか?
竹内 そう考えています。
「イノベーション」とは、今までとは違う波を起こして、それに乗ることです。人間は、社会の中でよい意味でも、悪い意味でも影響し合います。異なるバックグラウンドを持った人間を受け入れない限り、新たな価値観を生み出すことはできません。
世界を牽引するアメリカのIT企業のトップたちは、移民をルーツに持つ人が多いのだそうです。アメリカがイノベーションを起こし続けているのは、新しく持ち込まれた価値観を受け入れる柔軟な風土があるからだと思います。そう考えても、日本のポストイノベーションが外国人材であると考えるのは自然です。
「国際競争力アップ」についても同じで、グローバルビジネスを展開する時には、生活様式も常識さえも異なる世界を相手にするわけです。日本ではない国々にサービス・価値を売り込み、世界に貢献したいならまずは相手を知り、受け入れなくてはなりません。
利重 「DEI推進」についても、フォーリノミクスなしには難しいでしょうか。
竹内 外国人材を活躍させずに、日本で「DEI推進」ができるかと問われれば、答えはNOです。労働力の減少が深刻な今こそDEIを積極的に推し進め、働ける人たちにくまなく活躍してもらうべきです。
私は、外国人材がDEI推進の「リトマス試験紙」になると考えています。彼らが活躍できる風土を作れたなら、女性はもちろん、障害を持つ人、いわゆるマイノリティといわれる人や若者など、様々な多様性を認めることができるはずです。日本において最もハードルが高いのは外国人材の活用。これがクリアできれば日本のDEIはグッと進展するでしょう。
外国人を受け入れることは、私たち一人ひとりのマイノリティ尊重につながる
利重 フォーリノミクスによる経済的メリットは分かりましたが、私たち個人の生活になにかメリットはありますか?
竹内 国内で外国人と関わる機会が増えたとはいえ、一部の日本人の中に「ルールを守れない」「ルーズである」などの偏見が残っているのも事実です。
彼らがもたらすものは、日本人がこのような固定概念を乗り越えた先に見つけられるのではないでしょうか。異なるバックグラウンドを持った人を受け入れ、その人たちが生き生きと活躍できるフィールドを作れたとき、結果的に私たち日本人にとっても、生きやすい社会が出来ていると思います。
例えば、日本人と一言にいっても、価値観も趣味もそれぞれ違います。人によって得手・不得手もあります。「男(女)はこうあるべき」「社会人とはこうあるべき」「目上の人の意見に従うべき」という、これまでの昭和的価値観を良しとするコミュニティーにおいては、その価値観に反している人は、意見を軽視されたり、嘲笑の対象になったりすることもあり、生きづらさを感じることもあったのではないでしょうか。
もはや、働き方も趣味も多様化する現代、それぞれのマイノリティを持たない人の方が少ないかもしれません。マイノリティーを尊重する社会は、多様な価値観を尊重し、お互いに得手・不得手を理解し補完しあい、強みを活かしながら、自分らしく活躍できる社会になるということです。
しかし、多様な価値観を認めるにも、生きた経験がなければ難しい。私たちは外国人の存在によって違いを認識できます。時には面倒なことや意見の相違があるかもしれませんが、この経験こそが貴重です。経験を重ねるだけお互いを理解する努力が生まれ、尊重できるようになるからです。
私は、このような経験を地道に繰り返すことで、DEIが推進されるのではないかと思います。まずは身近な外国人を受け入れ、ひざを突き合わせるコミュニケーションからを始めてみましょう。私たちがそれぞれ持つマイノリティまでも認められ、尊重される社会づくりにつながるはずです。いまだ残る外国人嫌悪、男尊女卑、障害者差別などの風潮を断つ足がかりとなり、日本に住む、すべての人の「生きやすさ」に大きく影響を与えられると思います。
日本の価値観をアップデート。誰もが生きやすい社会へ
利重 これまで以上に外国人材に活躍してもらい、フォーリノミクスを推進するにはどうしたらよいでしょうか。
竹内 やはり企業のトップが先陣を切り、DEIを推し進めていくことが先決でしょう。いつまでも固定概念に縛られていては、組織の成長もなければ社会を変えられるはずもありません。
改めて企業が求める「成果を出せる人」とは、どのような人かを考えてみると良いと思います。それは、5分前出社ができる人でしょうか?日本語をパーフェクトに読み書きできる人でしょうか?それとも、空気を読んで上司のお茶汲みができる人でしょうか?成果を出してくれる人とは、必ずしもイコールではない気がします。
本当の意味で成果を出せる人とは「成果に全力でコミットしてくれる人」ではないでしょうか。それは、子育て中の女性かもしれないし、親を介護している男性かもしれない、障害を持つ人かもしれないし、外国人材かもしれない。企業が本当に成果を出せる人たちをシンプルに求めることでDEI推進につながり、それがフォーリノミクスの大きな一歩となります。
利重 フォーリノミクスを実現した時、日本はどのような変化を遂げているでしょうか。
竹内 ESG投資(※)の拡大などを見ても、世界がサスティナビリティにフォーカスし、持続可能な社会の実現を求めていることは明白です。(※ ESG…企業が持続的な成長を目指すためにはEnvironment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の3つの観点が重要であるという考え方。)
フォーリノミクスの実現はダイバーシティに配慮していることが示されるため、世界的に評価されることは間違いありません。
さらに人口減少下において経済成長が見込めれば、今後人口減少が待っている国々のロールモデルとしてさらに日本の価値が上がっているでしょう。
フォーリノミクスが実現するということは先に述べた「イノベーション」、「国際競争力アップ」、「DEI推進」を達成するということです。日本全体の価値観がアップデートされ、幸福度の高い社会が築けていると思います。
今こそフォーリノミクスを推進し、世界に誇れる社会を皆で形成していきたいですね。