外国人雇用企業へのインタビュー (株)ビジョン 代表取締役社長 佐野 健一氏

グローバルパワーユニバーシティ 外国人雇用の先人に学ぶコーナー第2弾は、株式会社ビジョン 代表取締役社長 佐野 健一氏にご登場頂きます。外国人雇用についての先進的な取り組みと、事業を成長に導いていらっしゃる秘訣、外国人雇用を通じて見える日本の未来などをお聞きしました。

佐野 健一(さの・けんいち)1969年生まれ。鹿児島商工高サッカー部を経て、株式会社光通信入社。同社でトップセールスとなり要職を歴任。1995年に有限会社ビジョンを設立。情報通信産業革命に貢献することを理念として、企業のビジネススタイルや個人のライフスタイルをイノベーション。2012年2月より、グローバルWiFi事業をスタート。200以上の国と地域で利用できる業界ナンバーワンブランドを確立。2015年に東証マザーズ市場に上場。2016年に東京証券取引所市場第一部市場変更。

外国人雇用は創業当時から。顧客ターゲットと一番コミュニケーションがとれるセールスが外国人だった。

竹内 まず読者の方々の為に、現在どのような事業をされているのか教えて頂けますか。

佐野社長 当社は、情報通信サービスのディストリビューターとして創業しました。現在は、その『情報通信サービス事業』に加え、海外渡航される方(日本へ渡航される訪日外国人客を含む)に快適なモバイルインターネット環境や各種関連情報・サービスを提供する『グローバルWiFi事業』の2軸で展開をしています。『情報通信サービス事業』としては、電話回線やビジネスフォンをはじめ、各種OA機器の手配まで、情報通信領域のすべてに対応できる総合サービスを提供しています。おかげ様で売上、利益ともに伸長しています。

竹内 現在、外国人社員はどのくらい在籍されていますか?

佐野社長 国内拠点のみですと、全体の10%弱程度で、14ヶ国の外国人社員が在籍しています。海外拠点を含めるともっと割合は増えますが、国籍は気にしていません。

竹内 外国人社員の採用はいつからスタートされたのですか?

佐野社長 外国人雇用は創業した日からです。私以外は全員外国人という状況からスタートをしました。国籍はブラジルとペルーでした。当時は、国際電話の割引サービスを日本にいる外国人、おもに日系人の方々にセールスする仕事でしたので、スペイン語、ポルトガル語が必要でした。BtoBの通信事業をスタートしてからは、日本人社員が増えていきました。

そもそも、サービス対象が南米の方々でしたので、セールスをするにあたっては日本人よりもその国の人の方が良いだろうと思っていました。

私は、高校時代にサッカーをやっていて、チームの1人がアルゼンチン国籍でしたので、一緒に外国人の方といることに対しては違和感はありませんでしたが、当時(1995年)の日本は、外国人と働いたこともないし、見かけた事もないという状況でしたので、総じて外国人にたいして親近感はなかったと思います。ですから、外国人が悪いことをしたというニュースが流れると、外国人全般が悪いという印象になっていましたし、当時の日本人は、単純に外国人に慣れていませんでしたので、差別や区別が事実あったと思います。

当社はお話しした通りの生業でしたので、日本人をセールスとして採用するという選択肢はありませんでした。ターゲットが誰なのかによって、アタッカーは変えなければならないと思います。当社の場合は確実にターゲットが決まっていたので、一番ターゲットとコミュニケーションが取れる人たちを選択しました。

竹内 当時はどのような手法で採用されたのですか。

佐野社長 一緒にサッカーをやっていたメンバーの奥様や彼女、友人などを紹介してもらいました。今風にいうとリファーラル採用です。当時はそういう手法でなければ外国人と出会えませんでしたし、採用活動に使う資金もありませんでした。

竹内 創業当時は国際電話の割引サービスのセールスという事でしたが、現在、在籍されている外国人社員の方々がやっている仕事はどのようなものになりますか。

佐野社長 グローバルWiFiに関する仕事とシステム開発の仕事、コールセンター、WEBマーケティング、出荷、空港店舗スタッフなど様々です。日本人、外国人というよりも、その人のスキルによってアサインしています。

「選んだ人をしっかり責任をもって育てる」という意識があれば外国人雇用は成功する。

竹内 最近は、直接採用活動をされる機会はないと思いますが、書類選考や面接で注意されている点などありますでしょうか。

佐野社長 直接採用に関わっていた時は、相手の履歴書は一切見ませんでした。学歴などでフィルタリングをしたくなく、「人をみる」ということに力量を置いていました。面接は、コミュニケーション能力・野心や成長意欲があるか、今は能力がなくても会社の力で伸ばしてあげられるかどうか、などを見ます。性別や年齢、学歴にとらわれず、より多くの人たちに門戸をひらいてチャンスを与えられるようにしたいと思っています。ただ、このやり方は、私独自のスタイルなのであまり参考にならないかもしれません(笑)。

今は、人事部にまかせていますが、メラメラと燃えていて、「この人と一緒に仕事がしたい」と思えるかどうかが大事なポイントだと思います。

会社規模が小さい時は、正直なところ外国人の履歴書をみても分からないと思います。よくわからない外国の大学名を見るよりも、人物をしっかり見て選ぶべきで、その「選んだ人をしっかり責任をもって育てる」という意識があれば成功する確率は高いと思います。

逆に「選んだ人をしっかり責任をもって育てる」という意識が会社になければ失敗する確率は高いでしょう。ある程度規模が大きくなり、採用実績を重ねていくとデータも蓄積されるでしょうから、履歴書の内容でもある程度わかるようになるのではないでしょうか。

(株)ビジョン 代表取締役社長 佐野 健一

竹内 日本人社員と外国人社員が一緒に働くことによるメリットなどはありますか。

佐野社長 自分と違う相手と一緒に働くというのは、慣れるまでに時間はかかりますが、慣れてくると、受け入れる日本人側の器も大きくなっていく気がします。

創業当時、アパートの1室でブラジルやペルーの人を集めて「これからこういう事業をやりたい。みんなの役に立てる仕事です。時給850円でどうでしょうか。」という話をしました。それを聞いた何人かが突然 泣き始めたのです。” あー、ちょっと時給が安かったかな。失敗したかな ” と思ったのですが、その涙は、嬉し涙だったのです。母国では教員や薬剤師だった人が出稼ぎで来日して工場の労働者として働いている状況でしたので、オフィスで働けることがとても嬉しかったのだそうです。その涙をみて「こちらも頑張らなければならない」と思いましたし、それが大きな原動力になりました。そして、そんな彼ら彼女らから学ぶ事も多かったです。

また、外国人と一緒に働くと、世界観がひろがります。外国人と働くことによって視野が広がり器も大きくなり日本人が成長する。人が成長すれば、組織としても良くなります。

ダイバーシティな環境で、当社は結果的に業績が伸びています。社員全員がやりたいことができているかどうかわかりませんが、会社としてもステージをあげてチャレンジできる環境を広げていかなければならないと思っています。ダイバーシティの方が絶対に組織として良い、という実感がありますので、どんどんを推進していきたいと思います。

竹内 外国人と一緒に働いて、トラブルや失敗をしたというエピソードはありますか。

佐野社長 日本人だから、外国人だからというのはありません。トラブルは日本人でもありましたので、外国人だからこのトラブル、という事はありません。当時みんなでカラオケに行ってノリノリでサンバを踊っていたら「うるさい」と店から怒られたぐらいでしょうか。あとは、事業をスタートした時に大手企業からお問い合わせを頂いたのですが、唯一の日本人である私が不在で、日本語ができないブラジル人社員がポルトガル語で対応してしまい失注してしまったというエピソードぐらいです。

人としての問題やトラブルは、外国人だろうと日本人だろうと関係はありません。むしろ、外国人の場合は何かやってしまうと強制送還されてしまいますので、そういう意味ではすごく慎重です。

マネジメントはその国の流儀でいく。マナーも法律も違うので「郷に入っては郷に従え。」

竹内 外国人社員の受け入れ体制などで工夫されている事はありますか。

佐野社長 当社はグローバルなビジネスですので、入社する日本人社員自体がすでにグローバルな感覚を持っている社員が多いです。ですから、外国人の同期をナチュラルに受け入れてくれています。当社は、「国籍も性別も年齢もなく平等である」ということを会社理念に入れているので、それはみんな理解してもらっていると思います。

マネジメントや評価については、特別な事は何もしていません。相手の国籍によって対応を変えるというような事もしていなくて、日本本社であれば、言語は日本語で各現場の責任者が日本式でしっかりマネジメントをしてくれています。逆に、ベトナム拠点であればベトナム式でのぞみます。

竹内 マナーも法律も違うので「郷に入っては郷に従え」で、その国の流儀でいくということですね。

佐野社長 有給についてもどんどん消化してもらっています。当社は、外国人も日本人も有給を積極的にとってもらっています。

竹内 日本の多くの企業は、まだまだ1週間程度の有給休暇が取れません。実はそれが理由で外国人社員が退職に至るケースがあります。定着率についてはいかがですか。日本人と外国人によって違いますか。

佐野社長 国によって違いや傾向はあると思います。例えば、ベトナムは文化的にジョブホップして成長していくという考え方であることと、高度成長期で選択肢が多いため、比較的定着率は低めです。ただ、それはそれで良いと思いますし、仕事を中途半端になげだして辞めていく人はいません。

竹内 今後の組織づくりとしてはどうお考えですか。

佐野社長 当社は、労働集約型を推進しない方針ですので、おそらくここ3年で組織を担う人数に変化はないと思います。ただ、人がやらなければならないところは積極採用していく予定で、様々な分野において外国人社員を増やしていきたいと思います。

10年後は、ビジネスマーケットの関係もあり、おそらく組織の30%は外国籍社員になっていると思います。マーケットが変わるから組織の構成が変わるのであって、それは自然の原理なのだと思います。

(株)ビジョン 代表取締役社長 佐野 健一

竹内 日本の外国人比率は2017年末の段階で全体の1.7%です。そのうち半数が企業に雇用されていると言われています。これからも日本の社会において外国人は増えると思いますか。

佐野社長 人口減により、AIやRPAなど解決策はあるものの、それだけではまかなえないものも多いと思いますので、外国人は増え続けると思います。日本の政府も外国人を増やそうと努力しています。外国人の就労者は積極的に受けいれていくべきだと思いますし、先進国は積極的に受けいれています。

外国人起業家はもっと増えていくべき。起業家になるという選択肢があれば働き方も変わるのではないか。

竹内 日本企業や社会はどう変わっていくべきだと思いますか。

佐野社長 日本の未来のためにも「何人だから」という国籍による弊害はなくしていなかいといけないと思います。インバウンドの恩恵も受けてきているので、ずいぶん減ってはいますが、まだまだ偏見みたいなものはあると思います。日本の会社のためにも、未来のためにも、外国人を受け入れる感覚を養っていかなければならないと思います。

また、外国人起業家はもっと増えていくべきだと思います。外国人が日本で起業し、成功のロールモデルを作り、雇用も創っていくのです。そうすれば、日本の内側からのグローバリゼーションがもっと起きてくるのではないかと思います。

日本は、外国人起業家にお金を貸すことや保障などの金融面がまだついてきていません。国の助成などの仕組みも必要です。また、日本人からすると、外国人社長の会社は働きにくいなどの印象もあるかもしれません。まず、誰かが実績を作っていくべきだと思います。

日本人が海外で会社をつくることが大変であるように、外国人が日本で会社をつくることは並大抵のことではないと思います。それをサポートしてくれる仕組みがあれば、もっと良い人たちが日本に来てくれると思いますし、今働いてくれている外国人の人たちにとっても次の目標になります。日本で起業家になるという選択肢があると思うと、働き方も学び方も一段と変わってくるのではないでしょうか。

 

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ABOUTこの記事をかいた人

株式会社グローバルパワー 代表取締役 1974年東京生まれ、群馬県藤岡市育ち。米カリフォルニア州立大サクラメント校を経て、1998年外資系ワイン商社に入社。2003年フルキャスト入社、05年社内ベンチャーとして外国人留学生採用支援事業部の設立に参画。09年事業部のMBO(経営陣による自社買収)を経て、グローバルパワーを設立。一般社団法人 外国人雇用協議会 発起人・理事。