永島 寛之(ながしま ひろゆき)
株式会社ニトリホールディングス
組織開発室 室長
人材教育部 マネジャー
外国人雇用を本格的にスタートすることで痛感した「マインドセ ット」の重要性
竹内 早速ですが、まずは、永島さんがニトリでどのようなお仕事をされているのか教えていただけますでしょうか?
永島氏 私は現在、組織開発室室長 兼 人材教育部マネジャーを担当しています。主には組織の制度設計、配置転換、採用、教育などです。2016年に採用のマネジャーになり、去年の7月から教育を兼任することになりました。そしてこの2月から組織全体の人事を見ています。
竹内 ニトリさん全体で、社員はどれくらいいらっしゃいますか?
永島氏 正社員が5,600人で、パート・アルバイトが2万5,000人いますので、国内は約3万人です。海外は、中国・アメリカ・台湾に出店していまして、ベトナムには自社工場がありますので、約1万人の従業員がいます。世界で約4万人です。
竹内 すでにグローバルに展開されていますが、国内の正社員のなかの外国籍の方の割合を教えていただけますでしょうか?
永島氏 正社員5600人のうち、外国籍社員は約5%弱です。内訳は、中国・韓国・台湾・ベトナム・モンゴル・アメリカなど12か国に及びます。
竹内 外国人採用をはじめたのはいつからですか?
永島氏 外国人の採用は以前から行っていましたが、ニトリがグローバルに展開していくにあたって、本格的に採用をスタートしたのは2015年4月入社からです。
竹内 外国人社員は、どのような仕事をされているのですか?
永島氏 日本人と同じで、まずはほとんどの社員が日本の店舗配属となります。4年経験するとフロアマネジャーを任されるのですが、その段階になっている社員もいます。
竹内 2015年から外国人採用を本格的にスタートして、定着率はいかがですか?
永島氏 最初の3年ほどは、よくありませんでした。外国人社員だけを見ると入社3年目までの退職率が30%を超えたこともあり、これは原因を確認して対策を打つ必要があると。そこで退職者へのヒアリングやプロフィールを確認してみると、早く母国に帰って貢献したいと思って入社した人たちが、日本での店舗業務にこらえきれずに辞めているケースが大半でした。
新卒で入ると、フロアマネジャーという中間の職位があり、それになるのに4年くらいかかるのですが、そこまで我慢できなかった。最初のマインドセットの部分が甘かったと反省しました。ニトリというのは、こういう会社で、こういうことを考えているから4年必要なんだ、ということをきちんと理解してもらう必要があると痛感しました。
そこで、そこからは面接の段階で、ニトリにかかわり続けたいというロマン(理念)やビジョンに共有できるような人だけに絞っていこうと、採用基準を変更していきました。
これまで毎年入社3か月で辞める方が5人くらい出ていたのですが、おかげさまで今年は今のところ1人も退職者が出ていません。
外国人との「ギャップ」は埋める必要があるが、「ディファレント」は「違い」であり、「価値」である
竹内 外国籍の人たちにきちんとキャリアパスを伝えきれていなかったと?
永島氏 人事側も伝えきれていませんでしたし、身近にいる上司もそこまで説明する必要はないと思っていた。典型的なミスコミュニケーションがたくさん起きていたということだと思います。
竹内 毎年入社後3か月で5人退職者が出ていた状況から考えると劇的な変化ですが、採用基準に関して、ほかに重視された部分というのはありますか?
永島氏 「なぜニトリなのか」を明確にできるというのはマインドの部分ですが、もう一つ見ているのが能力面です。まずは日本の店舗で働くため、日本語が話せないとお客様対応できませんから、日本語能力試験のN1を持っているというのは基準としておいています。
ただ、このN1を持っているかどうかよりも重視しているのが、自国民以外の人とどういう関わり方をしてきたかという部分です。私は最終面接ではそこを見ています。
日本人は多様性に関して鈍化している部分がある。ですから、やはり採用する目的として多様性を持ち込んでほしいというのがあります。
そういう点でいうと、N1という語学の資格はないけれども、日本人の友人がたくさんいて、日本語のコミュニケーションスキルが高い方が結構いるのですが、そういう人にアクセスしきれていないところは、今後の課題です。
竹内 お話を伺っていると、外国人雇用の目的が人材不足を補うということよりも、企業の活性化のために外国籍の人材を積極的に活用するんだという戦略を感じます。
永島氏 そうですね。それまでは、日本人を補うために外国人を迎えようという考えでした。ところがそれが目的だとどうなるかというと、同化させる教育が始まる。日本人化しようとする。上司には歯向かってはいけないとか、飲み会に参加しなければいけないとか(笑)。本質から離れた動きになってしまう。
そうではなくて、彼らは、むしろ我々の意識を変えてくれる人たちなんだという視点に切り替えています。ですから、それに合わせて、受け入れる側となる日本人社員の教育、店長の教育、あるいはフロアマネジャーの教育を同時に進めていきました。
竹内 どういう研修をされるのですか?
永島氏 まずはニトリが、これからグローバルに出て行くにあたってどういう能力が必要なのかという理解、異文化コミュニケーションに力を入れています。特に「ディファレント」と「ギャップ」を混同してはいけないということ。ギャップは埋めなければいけないけれども、ディファレントは違いであり、その違いこそが価値であると。
そしてギャップは埋めないとコミュニケーションが取れないということを理解してもらったうえで、後半からは、シミュレーションを行います。例えばこの場面でこういうこと聞いてきた場合、あなたはどう答えますかといったことです。店長たちにもそのようなロールプレイングをひたすら受けてもらいました。
竹内 店長たちの反応はいかがでしたか?
永島氏 研修受けた後、実際に試してみることで、自分のマネジメントスタイルが変わったという人が多かったです。仕事の指示に関して、その内容や意味といったことを、より細かく、より丁寧に説明する必要があるわけですが、これは外国人社員に対してだけでなく、日本人の若い社員にもそうした方がいいのではという気づきにつながりました。グローバルに向かった結果、マネジメントも、サーバント的に下から支えてやるというところを経験することで、自分のマネジメントスタイルが変わったと。これは非常に大きな収穫でした。
竹内 異文化コミュニケーションの座学とロールプレイングの研修、そして実践によって店長はじめ日本人社員の方々が、ダイバーシティに対しての感覚を身につけていく。私は、ダイバーシティこそが組織や国を活性化すると確信していますので、すばらしいことだと思います。
永島氏 これは財産ですね。先ほどお話ししたこととつながっているのですが、例えば外国人社員からSOSが出ている店舗とか組織というのは、ほかの日本人も同じ状況にあるケースというのが結構多い。そういう意味では、マネジメントを変えなければいけないタイミングだという問題意識が店長たちの潜在意識下にあったのだと思います。
というのも、今の日本人の若い社員たちが、海外の社員たちに近い感じになってきているということがあります。「どうしてそれをやる必要があるのか?」といった意味の説明を求めてきますし、自分の成長というものを可視化してあげないと納得しない。外国人をマネジメントするにあたっての研修を受けることで、その問題意識が顕在化したという感じでした。
「外国人雇用」が必要なのは、「人材不足」だからではない。日本人社員との化学変化こそがダイバーシティの目的
竹内 外国人雇用の成果、成功事例といえるようなエピソードがあれば教えてください。
永島氏 中国籍の女性社員の例が、非常に参考になるのではと思います。彼女は、外国人雇用を本格的に始める前の2013年入社なので、日本人と同じ選考過程を通過して採用された方です。店舗配属になり、いくつか店を経験して2015年にお台場に着任したときのエピソードになります。
ちょうど海外のお客様が増えてきている時期で、店の前にあるラオックスさんが免税品を売っていて、お客さんが長蛇の列になっていました。ニトリでは、まだその当時は免税制度を取り入れていなかったため、彼女はそれを見てチャンスだと思い、同じことをニトリでやりたいと提案したのですが、店長もエリアマネジャーも却下します。
理由は、ニトリのビジネスモデルが、ニトリの店舗の周りに住んでいる10万人の人たちの暮らしの豊かさを提供するという目的でつくられていること。海外からの旅行客のために何かを提供するというのは、私たちの仕事ではないということです。
しかし彼女にしてみれば、中国にも出店していくのだから、ここで喜ばれるモノを販売してニトリの魅力を理解してもらうことはイメージアップにつながると思うわけです。何より売り上げにもつながるのではないかと。
そこまで言うならと、店長も彼女にいろんな免税店を調査してみてはと指示します。すると、お台場のヴィーナスフォートにある中国人が多い店などで、何が何個売れるのかというのを、店の前で何時間も定点観測をして、レポートを作ってきた。そして、水筒やスーツケース、日本製の包丁などを展開すれば、これくらいは絶対に売れると彼女は確信して、改めて提案してきました。
すると店長の気持ちも変わりました。そこから話が動き始め、会長のところまで決裁書が上がり、思い切ってやってみたらいいということで決済が下りたのです。
ところが、決裁が下りたのですが、本部はなかなか指示を出さない。これは当たり前のことで、本部も、免税店をはじめるためにどうすればいいかわからないわけです(笑)。
待っていても何も進まない。そこで、彼女は自分で調べ始める。そうこうしている間に、彼女の行動力が店長を巻き込み、周りのパートさんらも巻き込み、みんなで調べていく。
免税業者になるためには、税務署に書類を提出して許可を得なければならないとか、免税店用の特別なレジを用意しなければいけないとか、そういったことがわかっていくうちに、エリアマネジャーも巻き込んで、結局、現場の力だけで免税店を作ることができたのです。今でもその時、彼女が作った免税店のマニュアルが全社のマニュアルになっています。
しかも、免税対応し始めてから売り上げが10%増えた。これは事件といってもいいくらいの結果で、例えば、スーツケースなどは、全店500店でも1日数個売れる程度ですが、その免税店では品出しが間に合わないほど売れていく。1日で100個とか売れていたのです。
前例のないことでも、情熱や思いでチャレンジして新しい市場を開拓していく。これは今の役員たちが成長した20年前、30年前のニトリにあった姿なのだと思います。今の役員たちが成長したのが、そういうときのニトリなのです。
竹内 まさにサクセスストーリーですね。感動的です。それは彼女が外国人だからできたことだと思いますか?
永島氏 1つは外国人ということで免税店というものが、我々よりもヴィヴィッドに見えていたというのはあるかもしれません。マイノリティの着眼点といっていいと思います。マジョリティ側にいると、「よくあんな爆買いをするよね」と、昔日本人がヨーロッパでティファニーを買いあさってバカにされたというのと同じ感覚で見てしまうところがある。彼女の場合は、それがビジネスチャンスに見えたということです。
もうひとつは、彼女は強い目的意識を持って日本に来ていました。私は「越境好奇心」という言葉で表しているのですが、彼女の場合は日本で学びたい、勉強したいという思いがあって、自分の意志で来た。だから実現できたのだと思います。
我々も、越境しなくてはいけない。暮らしの豊かさを提案していくというのがニトリの使命なので、いつかは既存の家具からも飛び越えて行かなければいけない。
さきほどの話には後日談があって、その時のお台場の店長は、日本で営業トップを目指して鍛錬していたのを急転回させて中国語を勉強し、晴れて中国の店長になりました。現在は日本でエリアマネジャーをやっています。
竹内 それもまた感動的なエピソードですね。彼女の存在が店長のキャリアビジョンを変えたということですか?
永島氏 ある日、その店長から「海外でキャリアを作りたい」と。面白い世界があることに気づいたということでした。最初は私も驚いたのですが、外国人を雇用していくことで起こる、こういった化学変化こそがダイバーシティの本質なのではないかと思います。やはり外国人社員には、日本人をグローバルに押し出すという役割をこれからも期待したいですね。
竹内 外国人の方がもっとこの日本で活躍してもらうために、日本企業はこれからどうすべきだと思われますか?
永島氏 今「外国人の雇用」という言葉が出てくるときに必ず「人材不足」という枕詞が付いてきますが、それはやめた方がいいと思います。その時点でダイバーシティの本質と矛盾してしまうからです。
人材不足を理由にしてしまうと、本来は残ってもらいたいような先ほどの彼女のような人材が会社を辞めてゆき、日本人の代わりを務めますという人だけが残るということになってしまいます。
竹内 日本人の代わりという考えであれば、先ほどの店長のように海外でキャリアをつくるというような変化が起こることはなかったかもしれないということですね。これまでのお話を伺って、確かに非常に重要な指摘だと思います。それでは最後に、これから外国人雇用を考えている人に対してアドバイスをいただけますでしょうか?
永島氏 自分の会社の本質を魅力的に説明できるようになりましょうということが重要です。日本人はマジョリティで過ごしてきているので自分たちが何者かをよくわかっていない。会社の強みといったことも知らなかったり。あえてアドバイスするのであればそこです。そして、自分の会社に入ると、どのような成長ができるのか、キャリアのストーリーを明確にしてあげることが重要です。
弊社でもまだ、ニトリがどんな会社かきちんと説明できない社員がいる。その程度では、外国人の方に私たちのことをわかってもらえないはずですし、結局ミスマッチが起きてしまう。コアコンピタンスのところがちゃんと説明できないと、せっかく採用しても、長続きせずに辞めてしまうことになります。私は、自分の会社の本質的な魅力を説明できることが、外国人雇用の第一歩目だと思っています。