はじめに
はじめまして!現在、ドイツで日本語教師として活動をしています、マリーナと申します。かつて私は、早稲田大学大学院 日本語教育研究科修士課程修了し、早稲田大学における非常勤日本語インストラクター、知的財産に特化したコンサルティング会社に勤務をしていた経験があります。そのような経験から、日本語能力試験N1を満点を獲得することが出来ました。私の日本語人生をお伝えすることで、日本で働く外国人のみなさん、もしくは外国人の受け入れをする日本人のみなさんのお役に立つことができればと思っております。
私の「日本語人生」日本語学習のきっかけ、動機づけ、目標など
私の日本語人生について少しお話させていただきます。私が「日本語人生」を歩み始めてから今年(2018年)で19年にもなります。「もう19年だ!」と悟った瞬間、実は我ながらショックを受けました。長いな~と。これは私の人生の半分以上になります。私の日本語人生は、来年はいよいよ成人式になります。
それはさておき、この19年間、日本語とともに生きてこられたことを、本当に嬉しく思っています。日本語のある私の人生は、楽しいことも、ときには悲しいこともあり、出会いも別れもあり、毎日本当に充実した人生だ、と私には思えます。日本語のおかげで、全く知らない世界への扉が開き、私の世界が遥かに大きく、遥かに広い、遥かに面白い空間となったのです。
この19年間、日本語は「学習者として」「日本語教師として」、「日本語を使って働く者として」、「日本社会の一員として」、そして現在は、母国のウズベキスタンでもなく日本でもない第三国においてこちらの人々に「日本・日本語・日本文化に触れるチャンスをつくる者として」付き合ってきました。どの役割も楽しいのですが、どんなことをしていても、「私は常に日本語学習者である」という認識は変わりません。19年間、ずっと日本語を勉強しているのです。
私が日本語に初めて興味を持ったのは、中学生の頃です。文学の授業で日本の和歌について学ぶ機会があり、和歌(私の母語への翻訳文ですが)を読み、「なんと美しいのだろう」と、しみじみと思いました。その静かな美しさが私の心の琴線に触れたのです。「いつか、日本語でも和歌が読めるようになりたい。」と思いました。そう、私が日本語を学び始めたきっかけはマンガ・アニメでもなく、Jポップ・Jロックでもなく、和歌だったのです。「シブい!」。今この言葉がみなさまの脳裏に思い浮かんだでしょう。私が日本語学習を始めた90年代後半、母国ではインターネットもそれほど普及しておらず、日本から離れていることもあり、日本・日本語・日本文化に触れるチャンスがほとんどありませんでした。ですから、私と同年代の母国の日本語学習者は、どちらかといえば、日本文学や武道などに惹かれ日本語の勉強をし始めた人が多いと思います。
このような経緯で日本語に興味を持ち、大学入学の時に日本語を主専攻として選択しました。「あいうえお」から、地道に習ってきました。そういえば、初めての授業は、いきなり日本人の先生でした。今でもよく覚えています。
そういえば、大学入学の前に、「日本語はあなたの母語とは全く違う語族だし、アジア系でなくスラブ系のあなたには日本語をマスターするのはとてもではないけど無理だ!」と「ものしり」の人に言われたことがありました。それは本当に私の腹を立たせ、「絶対に日本語をマスターしてみせる!」という原動力になった思います。「全く違う言葉だからこそ、誰よりもできるようになってみせるぞ!」と。
学習当初は、多くの学習者と同じように漠然とした目的しかなく、「日本語をマスターしたら、日本語を使って仕事をしたい」と思っていました。何しろ、当時は16歳ですし、将来何がしたいのか、まだ見えていませんでした。(当時は国の教育制度で16歳で大学に入れました。)しかし、日本語を勉強すればするほど、本当に楽しくなり、「将来はこのような素敵な学習体験を多くの人に提供したい。」「日本語教育に携わりたい。」と徐々にイメージが湧いてきました。
学部3年目が終了後、筑波大学へ1年の留学のチャンスを得ました。この1年間は、私の日本語人生の中でいろいろいな意味で本当に重要なものでした。それまでに使っていた教科書を作成された先生に、直接日本語を教えていただく機会や、自分と同じように日本語に対して情熱を燃やしている世界の国々の人に出会う機会が得られ、本当に刺激的でした。そして、留学を終え帰国後、初めて日本語能力試験を受けてみました。いきなり1級(1級=N1)に挑戦しましたが合格しました。
学部卒業後は、ウズベキスタン・日本人材開発センターに日本語講師として就職しました。当時は、ひたすら日本語を学ぶ喜びを周りの人と分かち合いたかっただけで、日本語を教えることに関しては、知識も能力もほとんどありませんでした。試行錯誤を繰り返しながら少しずつ「教える事」を学び始めました。その学習ももちろん未だに続いています。
その後縁があり、研究生としての勉強を経て、早稲田大学大学院の日本語教育研究科(通称「日研」)の修士課程に入学しました。勉強は本当に苦しかったです。読むページ数も多く、レポートの課題も多く、本当に大変でした。しかし、前に進むしかなかったのです。「日研」での勉強は、日本語学習・日本語教育に対する考え方はもちろん、人間としての自分自身や自分の生き方の振り返りのいい機会となりました。
博士課程に入ると、実際に教師として早稲田に来る外国人留学生に日本語を教える機会も得られました。国では、母語を媒介語として使って教えていましたが、世界中の留学生が一つの教室で集まる早稲田ではそうはいかず、いろいろな意味で貴重な経験となってくれました。
大学院を修了後、東京にある日本企業で日本語教育とは全く関係がない仕事をすることになりました。仕事に関しては、初めてで、わからないことばかりで大変でしたが、「日本語能力だけは舐められないようにするぞ!」と決め、毎日楽しかったです。電話応対をマスターし、電話でのお客様に日本人に間違えられたり、褒められたりして、なんと気持ちよかったことか!
現在は、南ドイツのバイエルン州という、オクトーバーフェストで有名で自然が極めて美しいところで日本語教育に携わっていますが、毎日本当に幸せです。「日本語よ、ありがとう!これからも大事にしていきますよ!」という気持ちですし、これからの私の日本語人生も本当に楽しみだと思っています。
私の学習方法&学習ストラテジー
私の日本語の学習方法や学習ストラテジーについて少しお話を致します。19年前に日本語の勉強を始めましたが、今ももちろん勉強中です。そしてこれからもずっと日本語を学びたいと思っています。「なぜ、そこまでがんばれるの?」それは、楽しいからです。満たされるからです。このような心構えこそ、私の主な学習ストラテジーなのです。
「シブシブ勉強しても、なかなか前に進まない・・」という体験は、誰もが経験をお持ちではないでしょうか。何よりも、「学習を楽しむ」事が大事です。
今でこそ、世界は語学学習のリソースに満ち溢れており、よほど限られた地域・コミュ二ティー内で話される言葉でない限り、自宅にいながら簡単に学習できます。外国語で「読む」「聞く」「書く」「話す」の四技能を上達させることが可能です。今は素晴らしい時代ですね!
私が日本語学習を始めたときは、母国ではインターネットもそれほど普及していませんでしたし、日本から地理的にも離れており、日本・日本語・日本文化に触れる機会がほとんどありませんでした。日本語学習環境としていわば「砂漠」だったのです。使える学習リソースが非常に限られていました。しかし、日本語を勉強し始めたからには、この、「孤立した環境の中でも、マスターしてみせるぞ!」という心構えでした。
大学で日本語を学習していましたので、漢字の勉強などの多くは「自分で自宅で勉強しなさい」と任されていました。このように、最初から「自律学習」の姿勢を身に着けるしかなかったのです。だからこそ学校が終わっても、このように誰にも頼らずに自分で楽しく勉強し続けることができました。
文法、漢字、語彙、聴解など、各項目の勉強において細かいストラテジーももちろんありますが、私の場合は一つだけ、勉強し始めたころからずっとこだわっている、全ての技能に関わるものがあります。それは、「たくさん読む!なんでも読む!とにかく読む!」ということです。今でこそ、読む以外にも「たくさん聞く」「たくさん見る」「ネイティブの方とオンラインでたくさん話す」など、様々な学習活動が可能ですが、私はそれも取り入れながら、やはりどうしても一番に「読む」にこだわっています。
文章を読むことで、実は様々な勉強ができます。語彙、文法、いろいろな言い回し、漢字など、意識しなくても全て文脈の中で習得することができます。それだけではなく、様々なストラテジー能力(わからない単語があっても意味を予測するなど)も上達します。このように普段から文章にたくさん触れておくと、いつか実際の生活場面で、適切な単語・言い回し・文法・漢字が自ら頭の中で浮かんできますよ!そのときの驚きや嬉しさといったらありはしません。
皆さんは、毎日何か日本語で文章を読んでいますか。なんでも大丈夫ですよ。小説、マンガ、専門書、ニュース、雑誌、ブログ・・・。豊富な学習リソースを使いこなしましょう!
このように「たくさん読む」ことを言語教育では「多読」というのですが、重要なのは、自分が読みたい文章をどんどん読むこととです。わからないことがあっても特に気にせずに、落ち込まずに、読み続けることなのです。ぜひやってみてくださいね!
同じように、「聞く」(+「見る」)活動も、実に多くの言語知識の習得につながり、様々な能力の上達を促進してくれます。覚えようともせずに、たくさん聞くことで、実際の生活場面の中で、「聞く学習」の中で習得された表現や言い回しが「このシチュエーションにぴったり!」というふうに思え、使ってみようと思うようになります。
このように、私たちは教科書や辞書のみにこだわってしまうのはもったいない時代に生きているからこそ、勉強し始めたばかりのころから、どんどん様々な日本語のリソースに触れてみましょう。
次回は、いよいよ日本語能力試験対策のお話です。お楽しみに。